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北陸先端大とJST、光と熱で形状記憶するバイオフィルムを開発

光と熱で形状記憶するバイオフィルムを世界で初めて開発


<ポイント>
 ・低炭素社会構築に必須のバイオプラスチックで、光エネルギーを力へと変換する材料を開発
 ・桂皮酸類(ポリフェノールの一種)と脂肪酸を結合させ高分岐高分子を合成
 ・この高分岐高分子のフィルムは光反応性を示し外力なしに屈曲し、その形状が記憶されることが判明
 ・光の強度、向きなどを自在に制御することでフィルム形状を複雑に制御することができた。さらに熱による形状記憶効果も示し、他種類の形状を記憶するアクチュエータを開発した。



 JSTが実施する課題達成型基礎研究の一環として、北陸先端科学技術大学院大学・マテリアルサイエンス研究科の金子 達雄(かねこ たつお)准教授と王 思乾(わん すーちぇん)博士らは、植物細胞に含まれる桂皮酸類(ポリフェノールの一種)を用いて、光と熱で多重形状記憶するバイオフィルムを開発しました。
 バイオプラスチック[1]は、光合成により固定した炭素を含む材料であり、二酸化炭素を長期間固定することが可能なため、低炭素社会構築に有効であるとされていますがそのほとんどは単純な構造のポリエステルであり機能性の点で問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨てなどの低価格帯の分野で使用せざるを得ず、工業製品などとして広く用いられるには至っておりません。
 今回研究チームは、光合成微生物から高等植物まであらゆる植物細胞に含まれる桂皮酸類の光機能性(リモート性、強度・波長などの制御性、環境調和性)に注目し、これと脂肪酸を組み合わせることで成形加工可能かつゴム物性を持ち合わせる高分子を世界で初めて作成しました。
 この高分子をフィルム化し、水銀ランプを照射するとランプの方向に凹面を向けて屈曲する光メカニカル現象が見られました。また、光の照射強度、方向を変化させることで従来の光メカニクス[2]素材よりも複雑に形状制御することも可能でした。同時に、このフィルムは熱による形状記憶効果[3]を示すことも分かりました。そこで光メカニクス効果と形状記憶を組み合わせることで、(1)光により記憶した形状から温度変化による形状記憶効果で別の形状へと変化させ、(2)再び加熱することで光により記憶した形状へと戻し、(3)さらにより短波長の紫外線を照射することで光変形前の初期形状に戻すことができました。以上のように、生体分子から光と熱で多重形状記憶できる高機能性フィルムを作成することに世界で初めて成功しました。将来的には、光アクチュエータ、光学-力学エネルギー変換素子などへと、さまざまな応用展開が期待でき、バイオプラスチックとしての大気中CO2削減効果も期待できます。
 本成果はドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲバンテ ケミ国際版:インパクトファクター13.73)」のオンライン版で近く公開されます。


 本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
  事業名:戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)
  開発課題名:「微生物バイオマスを用いたスーパーエンジニアリングプラスチックの創出」
  チームリーダー:金子 達雄(北陸先端科学技術大学院大学 准教授)
  研究開発期間:平成22~27年度(予定)
 JSTは本事業において、温室効果ガスの排出削減を中長期にわたって継続的かつ着実に進めていくために、ブレークスルーの実現や既存の概念を大転換するような『ゲームチェンジング・テクノロジー』の創出を目指し、新たな科学的・技術的知見に基づいて温室効果ガス削減に大きな可能性を有する技術を創出するための研究開発を実施しています。


<開発の背景と経緯>
 植物などの生体に含まれる分子を用いて得られるバイオプラスチックは材料中に二酸化炭素を固定することにより、二酸化炭素濃度を削減し、低炭素社会構築に有効であるとされています。しかし、バイオプラスチックのほとんどは、単純な構造の高分子からなり機能性の点で問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨てなどの低価格帯の分野で使用せざるを得ず、工業製品などとして広く用いられるには至っておりません。例えば、ポリ乳酸は代表的なバイオポリエステルですが、それを構成する高分子中には芳香環、光反応性官能基、π共役系構造などの光機能性を示す部位がないため、汎用プラとしての検討がなされています。しかし、一般に生体工学的な生産工程にはコストがかかるため、ポリ乳酸はポリエチレン、塩ビ、ポリプロピレンなどの従来の汎用プラスチックとの競争に悪戦苦闘している状況です。
 研究チームは、以前よりポリフェノールの一種である剛直な構造の桂皮酸に注目し、中でも大麦などの単子葉類に多く含まれる桂皮酸類から高機能性のバイオポリエステルを開発してきました。本プロジェクトでは、桂皮酸類の光反応を利用して高性能・高機能スーパーエンジニアリングプラスチックを開発することを目的として進めています。今回、(1)4-ヒドロキシ桂皮酸とコハク酸(天然分子)からなるモノマーの合成に成功し、このモノマーと各種グリコール(バイオ分子から生産可能)とのエステル交換重合法を開発し、二酸化ゲルマニウムの触媒作用により高分岐バイオポリエステルを得ることができました。さらに、(2)当該バイオポリエステルのフィルムは光メカニクス効果を示し、照射光の強度、方向、波長などを変えることで、さまざまに形状変化させるその形状を記憶させることが可能でした。(3)また熱による形状記憶効果も示したため、上記光メカニクス効果と組み合わせることで、他種類の形状を記憶する形状記憶フィルムとして利用可能であることが分かりました。


<作成方法>
 パラクマル酸をメチル化した後にコハク酸と反応させると、表1の左上のBMOPSと表記される構造のエステル化合物を得ることができます。これをモノマーとして使用し、各種グリコール(1.1等量)と混合し二酸化ゲルマニウム触媒(1重量部)の存在下でゆっくりと加熱し200℃で45kPa(キロパスカル)の真空下で10時間撹拌し、続いて220℃で10kPaでさらに70時間撹拌します。すると粘性の高い物質となり、自然冷却することで樹脂状の固体が得られます(反応式:表1)。このとき、これ以上長時間撹拌するとゴム状の物質へと変化し、成形加工が困難となるので注意が必要です。得られた樹脂をホットプレス法(200℃で2MPaの圧力をかけて30秒プレス)でフィルム状に加工(0.5mm厚)します。


<今回の成果>
 今回の成果は大きく分けて以下の2つにまとめられます。

1)バルクエステル交換法による絡み合った高分岐高分子の合成
 高分岐高分子は一般に高分子鎖間の絡み合いが起こらないために、その成形は難しいとされています。一方、網目状高分子はゴムのように形状記憶効果を示すがホットプレスなどの成形加工は困難です。そこで、本研究では無溶媒中で高分岐高分子を合成することで分岐鎖が絡まったまま高分岐高分子を得ました。これにより、ホットプレスによる成型加工が可能でかつ形状記憶効果を示すポリエステルの合成に成功しました(重量平均分子量27400-48300g/mol)。具体的にはグリコールのエステルモノマーに対する若干量の過剰導入によるポリエステルの末端水酸基化と(表1上の構造式a)、その末端の二重結合への付加反応を利用することで10%以上の高い分岐度を持つポリエステルを合成しました(表1上の構造式b)。また、完全な編み目鎖ではないにも関わらず、形状保持率Rf(◇)と形状回復率Rrともに90%以上の高い値を示しました(表1)。

 ◇の正式表記は添付の関連資料を参照


2)光機能性形状記憶効果の発見
 フィルムに高圧水銀灯による紫外線照射を行うと、照射側を凹面にして屈曲する光メカニクス効果を示しました(図1a)。この変形スピードはグリコールの炭素数に依存して変化しました(図1b)。しかも、この変形後の形状は記憶され、この形状を初期形状として温度による形状記憶効果を示すことが分かりました。さらに、低圧水銀灯によるより短波長の紫外線照射により元の平坦なフィルムへと戻ることも分かりました。その上、光の照射強度、方向を変化させることで従来の光メカニクス素材よりも複雑に形状制御することも可能でした。つまり、さまざまな形状を複数の刺激で記憶できる多重形状記憶フィルムとなることが分かりました。たとえば図2に示すように、イチョウの葉の形状を羽ばたく白鳥の形状へと変化させ、それを眠る白鳥の形状にし、また羽ばたく形状へと戻すこともできました。


<今後の展開>
 本成果により、高度分岐型高分子の新しい利用法の開拓と、桂皮酸類の光機能性が見いだされました。天然物の中には多くの桂皮酸類が存在しますが、この生体分子の光機能性バイオプラスチック原料としての利用範囲が広がったと言えます。また、得られた光メカニクス素材の、光エネルギーを直接力学エネルギーへと変換するエネルギー変換素子としての利用可能性も見いだされました。

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