2013/09/17 Category : 未選択 東京医科歯科大とJSTなど、過剰な免疫反応を抑制する新たな樹状細胞のはたらきを発見 過剰な免疫反応を抑制する新たな樹状細胞のはたらきを発見 ~感染症や自己免疫疾患治療に新たな視点~ 【ポイント】 ・免疫反応は、病原体を排除することで宿主を防衛すると同時に組織を傷害する"諸刃の剣"です。激しい免疫反応ほど、それを適度に抑制する仕組みが必要不可欠です。 ・研究グループは今回新たに、樹状細胞(注1))による血球貪食(注2))が、過剰な免疫反応を抑制し、組織傷害による個体の死を回避することを発見しました。 ・血球貪食に基づく感染症や自己免疫疾患の診断、さらに樹状細胞を用いたこれら疾患治療への応用が期待できます。 JST課題達成型基礎研究の一環として、東京医科歯科大学 難治疾患研究所の樗木(オオテキ)俊聡 教授らは、秋田大学大学院医学系研究科の澤田賢一教授らとの共同研究により、樹状細胞(DC:DendriticCell)による血球貪食が、過剰な免疫反応を抑制する仕組みであることを新たに発見しました。 ヒト血球貪食症候群(注3))は、先天的な遺伝子異常によって発症するもの(一次性)と、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍などの疾患にともなって発症するもの(二次性)に分類されます。免疫細胞が暴走し、大量のサイトカイン(注4))の産生や貪食細胞による赤血球や白血球の貪食を特徴とし、重篤な場合には死に至ります。 本研究グループは、マウス血球貪食症候群モデルを用いて、今回新たにDCによる血球貪食が、過剰な免疫反応を抑制する仕組みであることを発見しました。DCは、正常な状態では従来型DC(注5))と形質細胞様DC(注6))に分類されますが、炎症状態では、さらに単球(注7))から誘導されるDCが存在することが知られています。激しい炎症や重篤な感染症の際、この単球由来のDCが主にアポトーシスを起こした赤血球系細胞を貪食することによって、免疫抑制性サイトカインを産生して過剰な免疫反応による組織傷害を抑制し、個体の死を回避することを見出しました。 本研究成果は、これまで激しい炎症の指標として位置づけられてきた血球貪食が、新たな免疫寛容(注8))機構としての機能を持つことを明らかにした重要な発見です。今後、本研究成果に基づき、免疫細胞の暴走など過剰な免疫反応を伴う感染症・自己免疫疾患に対する新たな診断法・治療法の開発が進むものと期待されます。 本研究成果は、2013年9月12日(木)午後12時(米国東部時間)に米国科学誌「Immunity」のオンライン速報版で公開されます。 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST) 研究領域:「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」 (研究総括:菅村和夫宮城県立病院機構理事長) 研究課題名:「樹状細胞制御に基づく粘膜免疫疾患の克服」 研究代表者:樗木 俊聡(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 教授) 研究期間:平成20年10月~平成26年3月 JSTはこの領域で、アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防・診断・治療することを目的に、免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています。上記研究課題では、主に粘膜組織における樹状細胞群の免疫応答・免疫寛容誘導機構を明らかにすることで、粘膜免疫疾患を予防・治療する技術開発を目指します。 <研究の背景と経緯> 免疫反応は、病原体を排除することで宿主を防衛すると同時に組織を傷害する、いわば"諸刃の剣"です。感染や炎症が起こるとDCは、Toll様受容体(TLR)をはじめとするセンサーで病原体の特徴を認識し、獲得免疫系を活性化して病原体を排除します。しかしながら、活性化された免疫反応、特にサイトカイン、化学伝達物質、ウィルスを排除するキラーT細胞(CTL)などは、病原体の排除に役立つと同時に組織を傷害します。従って、免疫反応には、病原体排除と組織傷害のバランスを調節・維持するための仕組みが必要になります。激しい免疫反応ほど、そのバランスを適度に調節する仕組みの重要性が増すことになります。しかし、激しい免疫反応時のバランス調節機構に関してはよくわかっていませんでした。 激しい炎症時には、貪食細胞による血球細胞の貪食が起こり、さらにいくつかの診断基準を満たす場合をヒト血球貪食症候群(HPS:Hemophagocytic Syndrome)と言います。HPSは適切な治療が施されないと死に至ることもあります。先天的な原因で発症する一次性HPSと、感染症や自己免疫疾患に付随して発症する二次性HPSに分類され、これまで、血球貪食は激しい炎症の一指標として位置づけられていました。また血球貪食の仕組みも不明でした。 <研究の内容> 本研究チームは炎症時の血球細胞の貪食の仕組みを明らかにするために、代表的なTLRが認識するリガンドであるCpG(微生物に多くみられるDNA配列)あるいはpoly I:C(ウイルスの構成成分に類似の合成RNA)を高濃度で野生型マウスに投与して、激しい炎症を誘導しました。その結果、骨髄、脾臓、末梢血などで"血球貪食"現象が観察されました(図1左)。貪食される細胞は主に未熟な有核赤血球でしたが、脱核した成熟赤血球も混在していました。また、貪食細胞が単球由来DCであることもわかりました。ヒトでは、EBウィルス、サイトメガロウィルス、HIVなどの慢性感染症でHPSが観察されます。そこで、マウスに慢性感染するリンパ球性脈絡髄膜炎ウィルスクローン13株(LCMVC13:Lymphocytic Choriomeningitis Virus Clone 13)を感染させたところ、"血球貪食"が効率よく誘導されました(図1右)。これらのマウス血球貪食症候群モデルを用いて、"血球貪食"機構の詳細を調べたところ、高濃度TLRリガンドあるいはLCMV C13によって赤血球系細胞にアポトーシス(注9))が起こり、フォスファチジルセリン(PS)が膜表面に露出して、単球由来DC上のPS受容体に結合し、貪食されていました。 興味深いことに、単球由来DCは血球を貪食すると、血清中にIL-10やTGF-■といった免疫抑制性サイトカインを産生しました(図2)。この血球貪食によって産生されるIL-10の免疫学的意義を明らかにするために、単球由来DCがIL-10を産生できないマウスを用いてその血球貪食について解析しました。同マウスにLCMVC13を感染させたところ、ウィルスを排除するCTLの誘導が促進され、LCMVC13の排除が亢進しましたが、一方、CTLによって肝傷害が重症化して半数以上のマウスが死亡しました(図3)。このことから、血球貪食現象はIL-10の産生を介して過剰な免疫応答を抑制していること、特に重篤な感染症において個体の死を回避する免疫寛容システムとして非常に重要であることが明らかになりました(図4)。 ※■印の文字の正式表記は添付の関連資料を参照 <今後の展開> 今回、二次性HPSなどで観察される"血球貪食"は、感染などによりアポトーシスを起こした赤血球系細胞などが、単球由来DCをはじめとする貪食細胞によって貪食される現象であることがわかりました。また、単球由来DCは血球貪食によって免疫応答を抑制させるサイトカインを産生させ、過剰な免疫反応を抑えることで個体を死から守っていることがわかりました。 これまで"血球貪食"は、HPSや他の激しい炎症状態の1指標とされてきましたが、本研究成果は、"血球貪食"が炎症抑制反応のバイオマーカーになり得る可能性を提示しています。また、"血球貪食"は激しい炎症状態を抑えることで自らの死を防ぐ代わりに病原体の排除を見送る、宿主~病原体間の共生戦略ととらえることもできます。 本研究成果は、慢性感染成立における新たな生物学的視点を提供するものです。また、免疫細胞の暴走など過剰な免疫反応を伴う感染症・自己免疫病に対する新たな診断法・治療法の開発が期待できるものです。 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword