2013/10/03 Category : 未選択 東京理科大と慶大、器官再生による涙腺機能の回復が可能であることを実証 東京理科大学TLO/慶應義塾大学医学部/株式会社オーガンテクノロジーズ ―科学雑誌『Nature Communications』(オンライン版)に成果を発表― 『器官再生による涙腺機能の回復が可能であることを実証』 高齢・情報化社会において克服すべき課題となっていた ドライアイの根治的治療へ展開される可能性 この度、東京理科大学・総合研究機構教授、株式会社オーガンテクノロジーズ取締役、辻 孝(つじ たかし)、慶應義塾大学医学部眼科学教室 教授、坪田 一男(つぼた かずお)が中心となって推進してきた再生医療に関する研究成果が、科学雑誌『Nature Communications』(オープンアクセス雑誌:http://www.nature.com/ncomms/index.html)で発表されることとなりました。 辻教授らの研究グループは、2007年に単一細胞から臓器(器官)のもととなる器官原基を人為的に組み立てる三次元的な細胞操作技術「器官原基法」を世界に先駆けて開発し(Nature Methods誌)、器官再生技術として世界中から大きな注目を集めました。2009年には、再生した歯の器官原基(再生歯胚)を生体に移植し、機能的な歯の再生に成功しました(PNAS誌、米国科学アカデミー紀要)。2012年には、世界に先駆けて成体由来幹細胞から機能的な毛包が再生可能であることを報告しました(Nature Communications誌)。これらの研究成果は、将来の幅広い臓器・器官の再生の実現可能性を示すものとして、世界中で大きな反響を呼びました。 今回の研究成果は、慶應義塾大学医学部、眼科学教室、平山雅敏助教らと共同で、マウス胎仔の涙腺原基を由来とする細胞を用いて、再生涙腺原基をつくり出し、涙腺の喪失部位に移植・生着させることにより、機能的な涙腺を再生することを明らかとしたものです。また、本研究では、マウス胎仔のハーダー腺原基を由来とする細胞を用いて、マウス眼表面に脂質を分泌するハーダー腺の再生が可能であることも明らかとしています。本研究成果は、機能的な涙腺を再生し、移植することにより涙腺機能を再生する、『涙腺再生医療』のコンセプトを実証すると共に、涙液機能に重要な脂質分泌腺の再生の実現可能性を世界に先駆けて示すものです。研究成果の詳細につきましては、添付の参考資料をご参照ください。 本研究は、平成25-27年度、文部科学省・科学研究費補助金・基盤研究(A)(研究代表者:辻孝)、「次世代器官再生医療のための基盤技術の開発」の研究補助金により推進されたものです。また本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)「再生医療実現拠点ネットワーク事業、再生医療実現ネットワークプログラム、技術開発個別課題」として採択された研究課題「歯・外分泌腺などの頭部外胚葉器官の上皮・間葉相互作用制御による立体形成技術の開発」(平成25-30年度、研究代表者:辻孝)の基本技術となるものであり、今後の研究の発展が期待されます。 ※図は、添付の関連資料「参考資料」を参照 1.研究の背景 1)涙の役割 涙腺は涙液を眼表面に分泌することにより、眼表面を保護します。涙腺は、歯や毛、唾液腺といった他の外胚葉性器官と同様、胎児期に起こる上皮・間葉相互作用により誘導される器官原基(涙腺原基)から発生します。成熟した涙腺は、分泌を担当する腺房、その周囲をとり囲み分泌物をしぼり出す筋上皮細胞、分泌物を送り出す導管からなり、神経機能と連携することで、高効率の涙液分泌システムを構成しています。眼表面上の涙液は、涙腺から分泌された水分や蛋白質と、マイボーム腺(マウスにおいてはハーダー腺)から分泌された脂質からなっており、涙液の機能である眼表面の湿潤、洗浄といった作用を果たしています(図1a,b)。 ※図1は、添付の関連資料「参考資料」を参照 2)涙腺と疾患 涙腺の機能低下により涙液は不足した状態がドライアイです。涙液の減少により、眼表面の細胞が障害され、視機能の低下や目の不快感などを引き起こします。ドライアイの原因には、シェーグレン症候群やスティーブンスジョンソン症候群といった内科的疾患から起きるものの他に、加齢やパソコン作業などの環境的要因などがあります。日本でドライアイに悩んでいる人は800万人以上、さらにドライアイ予備軍まで含めるとその数は2,200万人にも達すると言われています(ドライアイ研究会報告)。さらに、高度情報化社会である現代の生活において、患者数は増加傾向であるため、その治療の需要が高まっています。ドライアイに対する現状の治療は、人工涙液点眼を主とした対症療法が中心です。そのため、涙腺機能の回復を実現するために、これまで幹細胞移入療法を目指した涙腺の組織幹細胞研究が進められているものの、いまだに臨床応用への道筋は立っていません。 3)涙腺、ハーダー腺の再生 そこで私たちは、次世代の再生医療として様々な分野で基礎研究が進められている「臓器置換再生医療」による涙腺の再生を目指しました。本研究グループでは、これまで、生体外における細胞操作により単一化した上皮細胞と間葉細胞から、共通発生メカニズムである上皮・間葉相互作用を誘導し臓器・器官のもととなる器官原基を人為的に再生する「器官原基法」を開発し(Nature Methods4,227-30,2007)、同法により「歯」や「毛などの外胚葉性器官の再生可能性を実証しました(PNAS 106,13475-13430,2009,Nat.Commun.3,784,2012)。これらの研究成果から、再生器官原基による器官再生のコンセプトが実証され、幅広い臓器・器官への技術応用が期待されています(図2)。そこで、本研究グループでは、涙腺再生医療の実現を目指して、涙腺再生の技術開発を進めました。 ※図2は、添付の関連資料「参考資料」を参照 2.研究成果の概要 涙腺は、胎生期における上皮・間葉相互作用から誘導された涙腺原基から、腺房や導管からなる腺構造を持ち、神経といった周囲組織と連携する機能的な涙腺へと成長します。そこで本研究では、マウス涙腺原基由来の上皮・間葉細胞から器官原基法により涙腺のもととなる再生涙腺原基を作製し、涙腺機能が障害されたモデルへ移植することで、機能的な涙腺を再生することが可能であるかを解析しました。さらに、本研究ではマウスにおいて眼表面に脂質を分泌するハーダー腺を再生することが可能であるか解析しました(図3) ※図3は、添付の関連資料「参考資料」を参照 1)再生涙腺原基・ハーダー腺原基の作製と移植 器官原基法により人為的に作成した再生涙腺原基は、成長して分泌腺特有の分岐構造を認めたことから、再生涙腺原基の作製は可能であることがわかりました。同様の方法でマウスハーダー腺原基も再生可能であることがわかりました(図4a)。この再生原基を、マウスに移植したところ、再生涙腺・再生ハーダー腺を高い頻度で生着させることができました(図4b)。さらに、レシピエント導管(▽)から注入した色素は漏れることなく再生涙腺に到達し、導管連結が確認されました(図4c)。 ※図4は、添付の関連資料「参考資料」を参照 2)再生涙腺・ハーダー腺の立体組織構造 涙腺の組織は、腺房とそれを取り囲む筋上皮細胞、導管、神経などの周辺組織が立体的に配置された構造であり、効率的な涙液分泌を可能にします。再生涙腺・ハーダー腺は、このような立体的組織構造と神経線維侵入を再現していることが明らかとなりました(図5a)。さらに、再生涙腺・ハーダー腺の腺房は、それぞれラクトフェリン、脂質を含むことが示され、分泌物をつくることが可能であることが示されました(図5b,c)。 ※図5は、添付の関連資料「参考資料」を参照 3)再生涙腺の神経応答分泌システムの再生 涙腺は、眼表面を外界から守るために、眼表面における刺激を知覚し涙液分泌を行うことが必要です(図6a)。本研究において、再生涙腺・ハーダー腺は、眼表面の冷温分泌刺激によりそれぞれ透明な涙液、白く濁った涙液を分泌することがわかりました(図6b)。さらに、再生涙腺における涙液分泌量は、正常涙腺と同等に増加しました(図6c)。また、涙液の脂質濃度を調べると、再生ハーダー腺からの涙液には脂質が多く含まれていることがわかりました(図6d)。このことから、再生涙腺はレシピエントの中枢神経システムとの接続を介した分泌機能を再生していることが示されました。 ※図6は、添付の関連資料「参考資料」を参照 4)再生涙腺による眼表面保護作用 再生涙腺が、眼表面保護機能を発揮することは、機能的な涙腺の再生において最も重要なことです。再生涙腺を移植したマウスにおいて、移植後30日の角膜上皮の障害面積は、同時期に処置した眼窩外涙腺摘出マウスと比べて改善しており、正常マウスと同等の健常な眼表面を維持していることが明らかとなりました(図7a,)。また、長期にドライアイが続くと角膜上皮細胞が脱落し角膜上皮の厚みは薄くなります。移植後60日において角膜上皮の厚みを調べたところ、再生涙腺移植マウスは正常マウスと同等の厚みを保つことができることがわかりました(図7b)。このことから再生涙腺による眼表面保護は可能であることがわかりました。 ※図7は、添付の関連資料「参考資料」を参照 3.今後の課題 以上の研究成果から、器官形成能を持つ上皮細胞・間葉細胞から再生した涙腺原基を創り出し、涙腺の喪失部位に移植することにより、機能的な涙腺を再生する「涙腺再生医療」のコンセプトを世界で初めて実証しました。また、もう一つの涙液の重要な構成脂質の分泌器官であるハーダー腺の再生を実証し、脂質分泌腺再生の実現可能性が示されました。 今後、本技術の臨床応用化に向けて、iPS細胞などの臨床において利用可能な幹細胞を用いた涙腺再生の技術開発が課題として考えられています。私たちは、本年度より、独立行政法人科学技術振興機構(JST)により「再生医療実現拠点ネットワーク事業 再生医療実現ネットワークプログラム、技術開発個別課題」として、研究課題「歯・外分泌腺などの頭部外胚葉器官の上皮・間葉相互作用制御による立体形成技術の開発」(平成25~30年度、代表研究機関:東京理科大学)が採択されており、この一環として研究を進めてまいります。 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword