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東北大、増殖にブレーキをかけ卵巣の腫瘍を防ぐ遺伝子の仕組みを解明

増殖にブレーキをかけ卵巣の腫瘍を防ぐ遺伝子の仕組みを解明
―ショウジョウバエでの研究成果・ヒトでも共通の機構が働いている―


 私たちの体は、卵と精子の合体から始まります。その卵は、女性の卵巣にある生殖幹細胞が増殖を重ね、作り出したものです。iPS細胞は人工の幹細胞ですが、生殖幹細胞は体の中にもともとある細胞で、卵(または精子)になることが運命づけられた細胞と自分と同じ幹細胞とを分裂のたびに一個ずつ生み出してゆきます。
 東北大学大学院生命科学研究科の山元教授のグループは、卵のもとになる細胞の増殖が止まらなくなって腫瘍を形成する突然変異体をショウジョウバエで見つけ出しました。この変異体で異常の起きた遺伝子を突き止めたところ、ヒトの遺伝性免疫疾患である無ガンマグロブリン血症(XLA)の患者で機能不全を起こしているものと同一の遺伝子(Btk)であることがわかりました。しかもこの遺伝子の働く場は、卵のもととなる細胞の“ゆりかご”にあたるエスコート役の細胞であり、これらの細胞から卵に対して増殖を止めるよう司令を出すのがBtk遺伝子の役目だったのです。増殖終結を司令する仕組みは、ヒトの細胞でも全く同じであることも明らかになりました。体を切断すると2匹に増えるプラナリアの再生、各種の癌の形成など、幹細胞の関わる増殖のコントロールに広くかかわる新たな機構がこれによって明らかになりました。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『サイエンス』(Science)1月17日号に掲載されます。

【背景】
 私たちの体は多数の細胞で組み立てられています。これらの細胞を生み出すのが幹細胞と呼ばれる増殖能力を持った細胞で、増殖能力が低下すると病気やけがで失われた細胞を補充することができず、逆に過剰に増殖すると腫瘍化してしまいます。必要な細胞を必要なだけ確実に生み出す仕組みの解明は、組織の再生と癌の抑制の双方にとって必須の課題です。今回、山元教授、濱田研究員らは、ショウジョウバエの卵巣を腫瘍化させる突然変異体の研究を通じて幹細胞の増殖を終わらせる機構の一端を解明し、癌抑制や再生医療への新たな可能性を提示しました。

【研究成果】
 ショウジョウバエのBtk29A遺伝子(*1)は、ヒトの遺伝性免疫不全疾患の無ガンマグロブリン血症(XLA)(*2)の原因遺伝子、Btkの相同遺伝子であることがわかっています。Btk29A遺伝子の機能が失われた突然変異体では雌が不妊になることから、その原因を解明するため変異体の卵巣を観察したところ、例外なく生殖細胞(卵細胞とその姉妹細胞)の腫瘍が生じていました。生殖細胞は全て卵巣小管の付け根に2-3個存在する一次生殖幹細胞に由来します。一次生殖幹細胞が分裂してできた二つの細胞のうち、一方は元の一次生殖幹細胞と同じものとなって“無限”増殖を行い、もう一方は4回の分裂で増殖を終了して卵細胞を生み出すよう運命づけられた細胞、すなわち二次生殖幹細胞になります。Btk29A遺伝子が突然変異によって働かなくなると、この二次生殖幹細胞が“無限”増殖するようになって、卵巣腫瘍が生じるのです。
 卵巣小管の“外枠”を作っている一部の非生殖細胞(体細胞)は、生殖幹細胞が“暴走”しないようにいろいろな司令を送ってコントロールしています。この体細胞の“ゆりかご”はニッチと呼ばれています。Btk29A遺伝子はこの“ゆりかご”を構成するエスコート役の細胞で働いており、突然変異体では暴走抑止のブレーキが故障した状態にあるため、二次生殖幹細胞の無限増殖が惹き起こされたのでした。
 Btk29A遺伝子は同じ名前のタンパク質、Btk29Aを生み出すことで機能を果たします。Btk29Aタンパク質は標的のタンパク質に燐酸基を付加して活性化する酵素(チロシンキナーゼ)です。卵巣ニッチでの標的を探したところ、さまざまな組織の発生・再生、また癌化などで増殖を制御することの知られているタンパク質、βカテニン(*3)が標的となっていました。実際、ヒトの細胞でもBtk(ヒトの)がβカテニン(ヒトの)をコントロールしていることがわかりました。

【今後の展開】
 “ゆりかご”の細胞でBtkが直接βカテニンを活性化すると、これが司令を出すサインとなり、幹細胞の増殖にブレーキをかけるというわけです。これは、無脊椎動物から哺乳類に至るまで幅広い動物に共通した増殖抑制の仕組みであり、組織の再生誘導やがんの抑制などに新たな道を開く可能性を秘めた発見といえます。

 ※本成果は、山元大輔教授を研究代表者とする文部科学省・基盤研究(S)、同・新学術領域研究、および公益財団法人武田科学振興財団研究助成によるものです。
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