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東北大、津波石分布に基づく琉球列島全域の巨大津波の頻度と規模の地域性を解明

津波石分布に基づく琉球列島全域における
巨大津波の頻度と規模の地域性を解明



<概要>
 琉球海溝沿いでの過去の巨大地震や津波に関する情報は、我が国の他地域に比べて少なく(注釈1)、この地域における防災対策上の大きな障害となっています。災害科学国際研究所災害リスク研究部門の後藤和久准教授、今村文彦教授らのグループは、琉球列島全域を包含するように奄美諸島、沖縄諸島、先島諸島の10の島々で調査地域を設定し(図1)、サンゴ礁上や沿岸部に分布する「津波石」と呼ばれるサンゴ巨礫の有無を地質学的に調べることで、琉球海溝沿いにおける巨大地震と津波の発生頻度や規模の特徴を評価しました(注釈2)。その結果、台風の高波起源の巨礫は琉球列島全域に存在するのに対し、津波石は先島諸島にしか分布していないことが明らかになりました(注釈3)。この結果は、琉球海溝沿いの巨大地震・津波の履歴を解明するうえで、次の2つの重要な示唆を与えています。

 1)先島諸島では、津波石(直径1m以上)を海岸に打ち上げる規模の大津波が繰り返し発生している。先行研究(Araoka et al.,2013)に基づけば、その再来周期は約150-400年である(ただし、津波の規模には大小があると考えられます)。

 2)奄美諸島、沖縄諸島では、先島諸島付近で発生しうる規模の大津波(または、台風の高波で打ち上げられた巨礫をより内陸まで再移動させるような規模の大津波)は、少なくとも過去2300年間は来襲した痕跡がない。言い換えれば、奄美諸島から先島諸島まで琉球列島全域に影響を及ぼしうる巨大津波(たとえば、琉球海溝全域で断層がずれて巨大地震が発生するなど)は、少なくとも過去2300年間は発生した形跡がない。

 このように、先島諸島に偏って過去の津波痕跡が見つかることから、琉球海溝沿いでの巨大地震・津波は、その頻度と規模に大きな地域的偏りがあると考えられます。今後、地震学的研究により琉球海溝沿いのプレート境界の物性などを調べ、津波痕跡の地域性の原因を明らかにすることが望まれます。今回の研究成果は、米国学術雑誌「Geology」のオンライン版で、9月6日に発表されました。なお、本研究の一部は科学研究費補助金(研究代表者:後藤和久、研究課題番号:23684041、および研究代表者:今村文彦、研究課題番号:22241042)を用いて行われました。


<注釈>
 注釈1:琉球列島において、歴史記録は過去350年ほどしか得られておりません。この間、大小9回の津波が発生したことがわかっていますが、甚大な被害を出した巨大津波は、西暦1771年の明和津波しか知られていません。明和津波は、石垣島南東沖を波源とする地震(およびそれに伴う海底地すべり)によって発生したと考えられます。津波は先島諸島(宮古―八重山諸島)を襲い、最大遡上高は石垣島南東海岸で約30mまで達したと考えられます。そして、約12000人の犠牲者を出した大災害でした。一方で、この津波の影響は沖縄島や与那国島などでは記録されていないことから、その影響範囲は宮古―八重山諸島の一部の島々に限定されていたと考えられます。

 注釈2:数百年から千年の時間スケールで発生するような低頻度の巨大地震・津波の実態を調べるには、地質学的手法が有効です。特に、歴史・先史時代の津波履歴や規模を調べるうえで、主に砂粒子で構成される津波堆積物の調査が有効であることが一般に知られています。しかし、低湿地が少ない琉球列島の島々は、砂質の津波堆積物調査にはあまり適していません。そこで本研究では、沿岸に分布する巨礫群に注目して研究を行いました。砂質津波堆積物を用いた場合は、津波履歴に加えて浸水域を推定できる場合がある一方、沿岸巨礫群を用いた場合は、数値計算と組み合わせることで津波の沿岸波高や周期を推定できる可能性があり、当該分野において関心の高い研究対象でもあります。

 注釈3:琉球列島の巨礫は、主にサンゴが累積したものやサンゴ礁の基盤が剥がされてできたもので、津波以外に台風の高波などの高波浪によってもサンゴ礁上に打ち上げられます(図2)。本研究では、津波起源の巨礫(津波石)と台風の高波起源の巨礫の識別法をまず検討し、巨礫のサイズ・空間分布の違いにより識別可能であることを明らかにしました(図3)。津波と台風の高波の水理学的な違いは周期にあります。具体的には、津波の周期は数十分~1時間程度なのに対し、台風の高波の周期は~20秒程度です。そのため、それぞれの波で運ばれたリーフ上の巨礫は、内陸方向への移動距離が異なります。具体的には、台風の高波で運搬された巨礫(直径1m以上)は、サンゴ礁の縁辺部(礁縁)から内陸方向に300m以上は運搬されず、こうした巨礫は琉球列島の全域に存在しています。これらの巨礫は、少なくとも過去2300年前から現在までに繰り返し発生した台風の高波の影響を受けて、現在の位置に到達していると考えられます。その一方で、先島諸島にのみ、台風の高波により運搬される限界線をはるかに超えて、沿岸部(礁縁から~1.5km)に最大直径9mもの巨大なサンゴ巨礫が打ち上げられています。


<論文題目および著者名>
 掲載論文:Localized tsunamigenic earthquakes inferred from preferential distribution of coastal boulders on Ryukyu Islands,Japan
 著者:Kazuhisa Goto,Kunimasa Miyagi,Fumihiko Imamura
 投稿誌:Geology(2013年9月6日オンライン版掲載)
 URL:http://geology.gsapubs.org/content/early/2013/09/06/G34823.1.abstract


<本文中での引用文献>
 Araoka,D.,Yokoyama,Y.,Suzuki,A.,Goto,K.,Miyagi,K.,Miyazawa,K.,Matsuzaki,H.,and Kawahata,H.,2013,Tsunami recurrence revealed by Porites coral boulders in the southern Ryukyu Islands,Japan:Geology,v.41,p.919-922,doi:10.1130/G34415.1.
 後藤和久,2012,津波石研究の課題と展望II―2009年以降の研究を中心に津波石研究の意義を再考する―.堆積学研究,第71巻,129-139.

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