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理化学研究所など、肺がんのリスクと予後を予測する新規バイオマーカーを発見

肺がんのリスクと予後を予測する新規バイオマーカーの発見
-NRF2遺伝子の一塩基多型が術後生存率と女性非喫煙者の発症リスクに関連-


<ポイント>
 ・一塩基多型を持つ肺がん患者は、手術後が良好で5年後も生存率が高い
 ・同じ一塩基多型を持つ女性非喫煙者では、肺腺がんリスクが男性より高い
 ・肺がんの予防と個別化治療の新たなアプローチとして期待


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)、横浜市立大学(田中克子理事長)、神奈川県立がんセンター(赤池信総長)は、細胞の防御反応に関わるNRF2[1]遺伝子の一塩基多型(SNP)[2]を調べることで、肺がん患者の予後[3]と女性非喫煙者の肺腺がんリスクを予測できる可能性を臨床研究によって見いだしました。これは、理研ライフサイエンス技術基盤研究センター(渡辺恭良センター長)機能性ゲノム解析部門オミックス応用技術研究グループの石川智久上級研究員(横浜市立大学大学院医学研究科客員教授)、岡野泰子客員研究員(横浜市立大学大学院医学研究科特任講師)、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)国際ゲノム連携研究チームのLee Ming Ta Michael(リー ミンタ マイケル)チームリーダーらと、横浜市立大学大学院医学研究科の根津 潤研究員(理研客員研究員)、棗田 豊教授、同大学附属市民総合医療センターの金子 猛教授(理研客員主幹研究員)、森田智視教授、田栗正隆助教、市川靖史准教授、および神奈川県立がんセンターの中山治彦副院長、横瀬智之部長、宮城洋平部長らとの共同研究グループによる成果です。

 肺がんによる死亡者数は世界中で年間137万人にのぼり、がん死の中で最も多く全体の18%を占めています(2013年WHO「Fact sheet」より)。日本でも肺がんは全がん死の19.7%を占め、男女ともに全がん死の中で最も多い死因であり(国立がん研究センターがん対策情報センター「2009年最新がん統計」より)、早期発見や治療法の開発が課題となっています。

 共同研究グループは、インフォームドコンセントを得た387人の肺がん患者の血液試料からゲノムDNAを抽出し、遺伝子多型解析を実施しました。NRF2遺伝子のSNP(-617C>A)と肺がん患者の治療後の臨床データとの関係を調べた結果、SNPホモ接合体[4](-617A/A)を持つ肺がん患者は、肺がんの外科手術後の5年生存率が良好と分かりました。一方、SNPホモ接合体(-617A/A)を持つ女性非喫煙者では肺がんの一種である肺腺がん[5]になるリスクが男性非喫煙者よりも高いことも分かりました。これらの予後とリスクには、それぞれ別のがん遺伝子が関わる可能性も遺伝子多型解析から示唆されました。

 以上の結果から、NRF2遺伝子のSNP(-617C>A)は、肺がんの予後と非喫煙女性の肺腺がんリスクを予測するための臨床上有用なバイオマーカーと考えられます。今回の成果は、肺がん患者の個別化医療における新しいアプローチとなります。

 本研究の一部は、JST先端計測分析技術・機器開発プログラム“世界最速SNP診断装置の開発”として行い、本成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLOS ONE』(9月11日付け:日本時間9月12日)に掲載されます。


<背景>
 日本の肺がん死亡率は近年増加傾向を示しており、特に高齢者ではこの傾向が顕著です。肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別されます。小細胞肺がんと、非小細胞肺がんに属する扁平上皮がんは、喫煙との関係が大きいとされています。一方、肺腺がんは代表的な非小細胞肺がんの1つで、非喫煙者の女性に発生する肺がんの主流となっていますが、その原因はよく分かっていません。

 転写因子であるNRF2は、活性酸素に反応して抗酸化遺伝子の発現を制御するなど細胞の防御に重要な役割を果たす一方、がん細胞の増殖や抗がん剤への抵抗性にも関わることが知られています。また、過去の研究からNRF2遺伝子の上流域に存在する一塩基多型(SNP)-617C>A(図1)が、NRF2遺伝子の発現に影響を及ぼし、酸素中毒による急性肺障害のリスクと関係することが示唆されています。しかし、このSNPが臨床上有用な情報となるかどうかは明らかではありませんでした。共同研究グループは、NRF2が喫煙などによる肺がんリスクの個人差に関係しているのではないかと予想し、肺がん患者におけるNRF2遺伝子の多型解析を計画しました。


<研究手法と成果>
 本研究の遺伝子多型解析を実施するにあたって、神奈川がん臨床研究・情報機構、神奈川県立がんセンター、および理研の倫理委員会の承認を得ました。神奈川県立がんセンターで治療を受けた肺がん患者のうち、インフォームドコンセントを得られた日本人387人(男性221人、女性166人)の血液試料からDNAを抽出し、神奈川がん臨床研究・情報機構を通じて理研に提供されました。理研と横浜市立大学は、等温核酸増幅[6]を用いて1時間以内で解析できる遺伝子多型解析法を開発し(図2)、患者のゲノムDNAのSNP(-617C>A)が、ホモ接合体(-617A/A)、ヘテロ接合体(-617C/A)、野性型ホモ接合体(-617C/C)のいずれであるか調べました。さらに神奈川県立がんセンターと協力して、患者の臨床データ(性別、年齢、喫煙歴、肺がんの種類と進行度、生存期間など)とSNPの関連解析を実施しました。その結果、SNP(-617C>A)の出現頻度は男女で差があり、SNPホモ接合体(-617A/A)を持つ女性の肺がん患者数比率は、男性の約4倍でした。特に非喫煙者の肺腺がん患者(140人)のうち、SNPホモ接合体(-617A/A)を持つ患者は16人で、その全員が女性でした。さらに、この女性非喫煙者のがん組織において、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子[7]の変異が頻繁に見られることも判明しました。肺腺がんを含む非小細胞肺がんでのEGFR遺伝子変異の頻度は、欧米人に比べて日本人で有意に高いことが報告されていましたが、NRF2遺伝子のSNPとの関係を示したのは本研究が初めてです。

 次に、NRF2遺伝子のSNP(-617C>A)と肺がん患者のがん進行度[8]および治療後の生存率との関係を解析しました。その結果、SNPホモ接合体(-617A/A)を持つ肺がん患者(24人)は、がんの進行度の早期(病理病期I期:22人、同II期:2人)に限定されており、外科手術の適応とならない重度の病期まで進行した症例は1つもありませんでした。しかも、手術成績は良好で、術後約5年間にわたり、他の死因で亡くなった1人以外の残り23人の患者は存命です(図3赤)。一方、ヘテロ接合体(-617C/A)または野性型ホモ接合体(-617C/C)を持つ肺がん患者(363人)は、病理病期が進行して(III期もしくはIV期)、5年生存率はSNPホモ接合体(-617A/A)の肺がん患者に比較して低く、特にヘテロ接合体(-617C/A)を持つ患者の5年生存率は30%でした(図3緑)。これらの結果から、NRF2遺伝子をSNPホモ接合体(-617A/A)として持つ患者は、肺がんの進行度が緩やかであるため、患者の予後が良好である可能性が示唆されました。

 さらに、NRF2遺伝子のSNP(-617C>A)と、がん細胞の増殖や細胞死に関わる他の遺伝子多型との関係を調べました。その結果、SNPホモ接合体(-617A/A)を持つ肺がん患者は、腫瘍の形成を促進するがん遺伝子MDM2[9]のSNP(309T>G)を持つ頻度が低く、野生型MDM2遺伝子を持つ割合が高いことが判明しました。正常なMDM2タンパク質は、がん抑制遺伝子p53を介して細胞の増殖を制御することが知られています。従って、NRF2遺伝子SNPホモ接合体(-617A/A)と野生型MDM2遺伝子は、がんの進行抑制に対して協調的に働いている可能性が考えられました(図4)。


<今後の期待>
 肺がんの死亡率が高い理由の1つは、発見時にすでにがんが進行していることが多いためです。今回、NRF2遺伝子のSNP(-617C>A)と肺がん患者のがん進行度および治療後の生存率との関係を示唆したことで、このSNPが肺がんの予後ならびに非喫煙女性の肺腺がんリスクを予測するための臨床上有用なバイオマーカーになると考えられます。

 NRF2が肺がんの進行に関わる仕組みはまだ解明されていませんが、石川上級研究員らは、NRF2遺伝子のSNPが野生型(-617C)の時、MDM2遺伝子のSNP(309T>G)との組み合わせで、がん抑制遺伝子p53の機能を低下させる機構を提案しています。さらに、NRF2遺伝子のSNP(-617C>A)が多剤耐性に関与する抗がん剤排出トランスポーターABCG2の発現レベルを調節する分子機構についても(図4)、今後詳細な検証を行います。

 また本研究で用いた、患者の血液試料やゲノムDNAからSNPを迅速(1時間以内)に検出する方法(図2)は、今後臨床の現場で、個別化医療を推進するライフサイエンス技術として期待できます。


<原論文情報>
 ・Yasuko Okano, Uru Nezu, Yasuaki Enokida, Ming Ta Michael Lee, Hiroko Kinoshita, Alexander Lezhava, Yoshihide Hayashizaki, Satoshi Morita, Masataka Taguri, Yasushi Ichikawa, Takeshi Kaneko, Yutaka Natsumeda, Tomoyuki Yokose, Haruhiko Nakayama, Yohei Miyagi, and Toshihisa Ishikawa.“SNP(-617C>A) in ARE-like loci of the NRF2 gene:A new biomarker for prognosis of lung adenocarcinoma in Japanese non-smoking women”. PLOS ONE, 2013, doi:10.1371/journal.pone.0073794.


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 ライフサイエンス技術基盤研究センター(http://www.riken.jp/research/labs/clst/
 機能性ゲノム解析部門(http://www.riken.jp/research/labs/clst/genom_tech/
 オミックス応用技術研究グループ(http://www.riken.jp/research/labs/clst/genom_tech/omics_app_tech/
 上級研究員 石川 智久(いしかわ としひさ)

 公立大学法人横浜市立大学 大学院医学研究科臨床腫瘍科学
 准教授 市川 靖史(いちかわ やすし)
 特任講師 岡野 泰子(おかの やすこ)

 地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立がんセンター臨床研究所
 臨床研究所がん分子病態学部長 宮城 洋平(みやぎ ようへい)

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