JST課題達成型基礎研究の一環として、北海道大学大学院薬学研究院の阿部洋准教授(前理化学研究所伊藤ナノ医工学研究室専任研究員)らは、遺伝子発現の情報を生きた細胞内で化学的に増幅して検出する分子プローブを開発しました。
細菌検査や医療診断などで、遺伝子解析技術の利用が進んでいます。現在、遺伝子の発現量を調べる方法として一般に用いられているリアルタイムPCR法(注1)は、1)細胞を破壊してRNAを抽出する、2)RNAからDNAに変換する、3)温度サイクルによりDNAを増幅する――それぞれの過程で時間とコストがかかります。このため、安価で簡便迅速な遺伝子検出技術の開発が期待されています。
今回、阿部准教授らは、細胞に含まれる特定の遺伝子の発現の有無を、酵素を用いず一定温度で、生きた細胞内で化学増幅して検出できるプローブの開発に成功しました。このプローブは、従来の方法とは異なり、細胞と混ぜるだけで遺伝子の発現の有無を解析でき、解析にかかるコスト、時間、スペースを節約できることから、環境細菌検査や医療診断など、その場で検査が必要な技術への応用が期待されます。
本研究は、岐阜大学工学部生命工学科の柴田綾特任助教(前理化学研究所伊藤ナノ医工学研究室基礎科学特別研究員)、理化学研究所伊藤ナノ医工学研究室の鵜澤尊規研究員、伊藤嘉浩主任研究員、北海道大学大学院薬学研究院の周東智教授と共同で行ったものです。
本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American ChemicalSociety」のオンライン速報版で近日中に公開されます