【研究の背景】 半導体を利用したメモリ(注1)は、dynamic random access memory(DRAM)やstatic random access memory(SRAM)が挙げられ、これらは単体メモリとしての応用だけではなく、集積回路中に混載してキャッシュメモリとしても使われています。これらの半導体メモリは、素子のサイズを小さくすることにより、大容量化・高機能化を実現してきましたが、テクノロジーノード(注2)が20nm以下の世代までの微細化は難しいと予測されています。これらの各種半導体メモリは電子の電気的性質を利用して成り立っていますが、電子には磁気(スピン)という性質もあり、これらの二つの性質を上手く融合したものがスピントロニクス素子です。 スピントロニクス素子の代表格である磁気トンネル接合(注3)は、素子構造が単純で占める面積が小さいために高集積化(大容量化)に適しています。また、高速書き込み・読み出しが可能であり、原理的には書き換え回数に制限がありません。これらは既存の半導体メモリが有する特徴ですが、加えて磁気トンネル接合を用いたメモリは、磁石の性質を用いて情報を記憶するために、情報保持に電力が不要な不揮発性を有します。つまり、磁気トンネル接合を用いたメモリを実現できると、これまでの半導体メモリの利点を損なうことなく、待機電力を劇的に低減したメモリを実現できると期待されます。 磁気トンネル接合を用いたメモリを実現するためには、半導体デバイスの微細化に応じて、不揮発性と低消費電力を維持しながら、素子のサイズを微細化する必要があります。これまで磁気トンネル接合を用いた不揮発メモリに関する研究は、世界中の半導体メーカー・大学・研究機関で行われて来ましたが、半導体メモリの実現が難しいと予測される20nm以下のテクノロジーノードに適用できるサイズで、高い不揮発性と低消費電力を有する磁気トンネル接合を実現した報告はありませんでした。
【研究の意義】 本研究によって、既存半導体メモリでは微細化が難しい20nm以下のテクノロジーノードで、スピントロニクス素子である磁気トンネル接合を用いた不揮発メモリを実現可能であることが分かりました。これによって、スピントロニクス素子を用いた大容量メモリの実現に向けて大きく前進したと考えられます。 なお、東北大学は今回の成果を、12月9日から11日まで米国ワシントンDCで開催される半導体デバイス技術の国際学会「2013 International Electron Device Meeting」において、9日に発表しました。