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東北大など、東北地方太平洋沖地震の巨大地震・津波発生メカニズムを解明

東北地方太平洋沖地震における巨大地震・津波発生メカニズムの解明
~地球深部探査船「ちきゅう」の科学成果が「SCIENCE」誌に3編同時掲載~


1.概要
 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、東北地方太平洋沖地震発生後、IODP(統合国際深海掘削計画、本年10月1日より新たなフェーズである「国際深海科学掘削計画」に移行)の一環として、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて震源域調査研究航海(東北地方太平洋沖地震調査掘削;2012年4月1日~5月24日、7月5日~19日)を実施し、震源海域のプレート境界断層浅部から地質試料を採取するとともに、断層運動で生じた残留摩擦熱の直接計測に成功しました。
 今般、得られた地質試料、孔内計測データ、長期孔内温度観測などのデータから、東北地方太平洋沖地震の際に日本海溝軸付近の浅部プレート境界断層が地震性滑りを起こしていたことを科学的に実証し、これまで常識とされてきた「プレート境界断層浅部では地震性滑りは起きない」という考えを根本から問い直す、極めて重要な結果を導きだしました。これにより巨大地震発生時における断層の滑りメカニズムや巨大津波の発生メカニズムの解明に向けて大きく前進しました。
 また、本研究航海は、科学掘削としては世界最高記録(掘削パイプの総延長)となる水深約6,900m、海底下約850mまでの掘削を成功させ、掘削孔内に複数の温度計を設置・回収するという、技術的にも極めて難易度が高いオペレーションであり、実際にプレート境界断層の直接採取・観測に成功したことは、地球深部探査船「ちきゅう」の高い運用能力を証明した取り組みでもありました。
 本成果は、本年12月6日4:00(日本時間)に米国科学雑誌「SCIENCE」に、3編の論文として同時に掲載される予定で、さらにこれら3編の論文に付随するコメントも掲載される予定です。

 【論文の概要】
  ○東日本大震災を引き起こしたプレート境界断層先端部は、厚さ5m以下であり、これまで考えられていたものより極めて薄い断層帯であることを発見しました。
  ○断層の地質試料を用いた室内試験により、断層物質が強度の弱い粘土からなることと、地震時に断層の摩擦発熱により断層物質の隙間に存在する水が膨張することで、断層が滑りやすくなったことを発見しました。
  ○掘削孔内に設置した複数の温度計測装置の結果から、プレート境界断層において周囲より0.31℃高い温度異常が見つかり、地震発生時の断層の摩擦係数が極めて小さかったことを発見しました。


2.背景
 これまでプレート境界断層浅部は地震性滑りを引き起こさない領域とされてきましたが、東北地方太平洋沖地震では、海溝軸付近で約50mの水平地殻変動と、約7-10mの垂直地殻変動が推定されており、これが巨大津波発生の原因になったものと考えられています。このような大規模な地殻変動は、浅部のプレート境界断層が地震性滑りを起こしたためと考えるのが最も妥当です。
 本研究航海は、なぜ、これまで地震性滑りを起こさない領域である海溝軸付近にまで断層運動としての破壊(滑り)が伝播したのかを調べるために、日本海溝の海溝軸付近において深海科学掘削を行いました。採取された地質試料から実際に巨大地震を引き起こしたプレート境界断層を構成している岩石の種類と物性を明らかにするとともに、断層面及び近傍の残留摩擦熱の温度変化を長期(9ヶ月間)にわたり直接計測しました。
 残留摩擦熱は、プレート境界断層の滑りにより発生するもので、この熱が計測できれば、そこから地震発生時にどのような滑りが発生したのかを解明することができますが、この熱は、地震発生後およそ2年ほどで周囲の地層中に拡散し、計測が困難となります。また、プレート境界断層を構成する岩石自体も変質し、時間が経過してしまうと摩擦特性(断層の滑る性質)の分析が極めて困難になります。
 しかし、海溝型巨大地震において地震発生後早期にプレート境界断層の温度計測や地質試料の採取を実施することは技術的に極めて困難であるとされてきました。
 このため、本調査掘削で得られた巨大地震発生後早期の試料やデータは、巨大地震/津波の実態を解明する上で極めて重要であります。このような貴重な試料とデータを用いての研究成果は世界で初めてのものであり、海溝型巨大地震/津波発生メカニズムの理解に大きな進展をもたらしました。


3.成果
 今回の研究成果は、科学掘削で得られた掘削試料、掘削と同時に実施した掘削孔内の検層(地質の特性や断層を把握するため、ドリルパイプの先端部に物理計測センサーを搭載し、掘削しながら計測を行うこと)によるデータの解析結果、プレート境界断層物質を用いた地震性滑りの再現実験、断層運動による残留摩擦熱の計測データの解析結果を合わせることで、非常に狭い(薄い)範囲の断層部で、非常に低い剪断応力(断層を滑らせる力)のもと、海溝軸付近まで大きな滑りが伝播したことを明らかにしました。
 この成果は、4.に示す3編の論文に集約されています。これをまとめると、東北地方太平洋沖地震の発生時、日本海溝軸付近まで破壊が伝搬したプレート境界断層は、水深6,900mでの掘削地点では海底下深度820mの所に存在し、その断層は、強度が低く、かつ透水性が低い遠洋性粘土(スメクタイト)を約78%と多量に含んでいることが明らかになりました。地震時に断層の摩擦発熱により膨張した間隙水(プレート境界断層物質の隙間にある水)が透水性の低い地層に挟まれて逃げ場を失うことにより間隙水圧を上昇させて断層を滑りやすくさせた(剪断応力を低下させた)と考えられます。残留摩擦熱の計測データの解析結果からも、滑りが生じた時の摩擦係数は0.08程度と非常に小さい値が見積もられており、断層が極めて滑りやすい状態であったと推定されました。
 また、このプレート境界断層は5m未満の厚さしかなく、しかもスメクタイトを多量に含み強度が低いため、断層が動きやすいことも、巨大地震/津波を発生させた要因と考えられます。
 つまり、今回の地震が大きな変位を伴って巨大な津波を発生させたのは、地質条件に起因したスメクタイトに富む滑りやすい断層であったこと、さらに断層運動時の摩擦発熱による間隙水圧上昇により、非常に低い剪断応力のもと断層が滑ったことが原因と結論づけられました。


4.SCIENCE 発表論文の概要

 論文タイトル:Structure and composition of the plate-boundary slip zone for the 2011 Tohoku-Oki earthquake
 著者名:Chester et al.
 要旨:海溝型巨大地震のメカニズムは、プレート境界断層の摩擦特性、構造、組成などによってコントロールされていると考えられています。2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の地震断層浅部で掘削同時検層・掘削コアの採取を行い、その構造、組成を調べました(図-1)。その結果、巨大滑りを発生させたプレート境界断層は、非常に狭い範囲(厚さ5m以下)に発達していることが明らかになりました。そこは強度の低い遠洋性粘土層からなり、周りの地層に比べ弱い地層であることから、動きやすく局所的に断層の滑りをコントロールしていることを示しています(図-2)。

 論文タイトル:Low coseismic shear stress on the Tohoku-Oki megathrust determined from laboratory experiments
 著者名:Ujiie(氏家) et al.
 要旨:これまでプレート境界断層での巨大地震発生時には、浅部まで大きな滑りは伝搬しないと考えられてきましたが、東北地方太平洋沖地震では浅部巨大地震性滑りが発生し、巨大津波を引き起こしました。そのメカニズムを探る為に、プレート境界断層から掘り出した試料を用いて、高速摩擦実験を行ったところ、地震時の断層における剪断応力は非常に小さいことを明らかにしました(図-3)。その原因として、断層物質が強度の低い粘土(スメクタイト)を多量に含むことと、thermal pressurization 効果(高速滑りにより発生した摩擦熱により断層中の水が膨張することで引き起こされる剪断応力の低下現象)があげられ、これにより大きな断層変位と、その結果としての巨大津波の発生を引き起こしたと考えられます。

 論文タイトル:Low coseismic friction on the Tohoku-Oki fault determined from temperature measurements
 著者名:Fulton et al.
 要旨:地震時の断層における摩擦抵抗は、地震ダイナミクス(挙動)をコントロールしています。断層での摩擦は、摩擦発熱による熱エネルギーとして消費されているため、断層での温度測定から地震時の断層における摩擦抵抗を推定することができます。IODP 第343/343T次研究航海では、東北沖地震が発生してから16ヶ月後に、温度計アレー(数珠つなぎの温度センサー群)を孔内に、プレート境界断層部分を中心として設置しました。9ヶ月後、全ての温度計の回収に成功しました。観測の結果、プレート境界断層では周囲より0.31℃高い温度異常が見つかり、27MJ/m2のエネルギーが地震時に断層で消費されたことが明らかになりました(図-4)。見かけの摩擦係数は0.08と見積もられ、通常の岩石よりもはるかに小さな値であったことが結論づけられました。

 コメント(PERSPECTIVES)タイトル:Dangers of Being Thin and Weak
 著者名:Wang & Kinoshita(木下)
 要旨:なぜ東北沖地震では数十mにもおよぶ断層滑りが発生したのか?それはプレート沈み込み帯では一般的なことなのか?といった根本的な疑問に対して、今回の地球深部探査船「ちきゅう」による掘削成果が大きな貢献をしました。海溝軸近くの浅部まで大きな破壊が生じたのは、これまでの考えを覆すものであり、今回の調査によって、浅部でも破壊速度に応じて摩擦が低下すること、そしてそれが非常に薄い、限られた地層内で起こっていることなどが明らかにされました。これらは掘削によって初めて明らかになったことであり、極めて重要な成果です。ただ東北沖の事例で、全ての巨大津波の発生原因を解決できたわけでないことは留意すべきです。


5.今後の展望
 今回の成果から、地震時の断層における剪断応力が低ければ、海溝軸付近にまで破壊が伝播して地震性滑りを引き起こし、破壊的な巨大津波を引き起しうることを示しており、東北地方だけでなく、南海トラフや琉球弧、伊豆小笠原弧、日本海沿岸などでも新たな視点での地震/津波発生ポテンシャルに関する調査研究、さらにはモデル化と数値シミュレーションが必要であることを示しています。津波に関しては、海溝軸付近までの破壊の伝播を考慮に入れて、科学的根拠に基づく最大規模の津波発生を想定するべく、巨大地震・津波発生規模の推定方法を見直す必要があります(例えば、既に内閣府によって行われた南海トラフでの津波数値シミュレーションの再計算例など)。
 また今回の知見は、環太平洋地域での巨大地震/津波は全て同一のメカニズムで説明できるわけではなく、各海域での特性を理解するためにさらなる調査研究が必要であることも示しています。
 今後は、これまでに得られたコア試料や地層物性データ、検層データ等の詳細解析をさらに進めるとともに、国内のみに留まらず、国際的にも今回の新たな知見をもとに、防災/減災への科学的な貢献へ資することが期待されます。
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