2013/11/16 Category : 未選択 東大、原子1個に記録された磁気情報を長期間保持するためのメカニズムを解明 「原子1個に情報は記録できるか?―従来の原子磁石の約10億倍の情報保持時間を観測―」1.発表者:宮町俊生(東京大学 物性研究所 ナノスケール物性研究部門 助教)2.発表のポイント ・原子1個に記録された磁気情報を長期間保持するためのメカニズムを解明 ・原子1個の量子力学的な「対称性」を考慮することにより、情報保持時間を従来比10億倍に高めた ・次世代情報ストレージ技術への応用や、原子磁石を用いた新方式の量子コンピュータ実現の可能性が期待できる3.発表概要: 現在の高度情報化社会は情報記録装置の小型化・高集積化を可能にする微細化技術によって支えられてきました。情報記録装置では、情報を記録する素材として主に磁石が使われています。近年では、微細化の極限である原子1個を作製する技術も開発され、原子磁石を使った超小型・超省エネルギーな「究極の情報端末」の実現が期待されています。しかしながらこれまでに報告されている1個の原子磁石では情報を保持できる時間が1マイクロ秒(0.000001秒)以下と非常に短く、実用化は困難とされてきました。 今回、東京大学物性研究所 宮町俊生助教を中心とした国際共同研究チーム(日本・ドイツ)は、原子1個の磁石としての性質である磁気モーメントの大きさと原子を塗布する表面の組み合わせが原子磁石の情報保持時間を高める鍵であることを突き止めました。最適な条件を満たす白金表面上のホルミウム原子磁石の情報保持時間を実際に測定したところ、10分以上情報を保持していることを確認しました。観測されたホルミウム原子磁石の情報保持時間は従来の原子磁石と比較して約10億倍と著しく向上されています。今回の研究成果により「次世代情報記録装置の開発」や「量子コンピュータ実現」への道が拓けると期待されます。 本成果は、英国科学誌「ネイチャー」に日本時間11月14日午前3時に掲載されます。4.発表内容:<背景> 情報記録装置の性能向上は、情報を記録する磁気素子の小型化・高集積化を可能にする微細化技術に支えられてきました。微細化により、究極的には磁気素子は原子1個で構成される原子磁石になると考えられます。しかしながら1個の原子磁石は磁気的に不安定で情報を保持できる時間が1マイクロ秒(0.000001秒)以下と非常に短く、実用化は困難とされてきました。 磁石の安定性は磁気異方性エネルギーとよばれるエネルギー障壁によって決まります。この障壁が小さいと磁石の向きが容易に反転してしまい、磁石としての安定性は低くなります。私たちがパソコン等、情報端末に使用している「大きな磁石」はこの磁気異方性エネルギーを高めることにより安定性を確保しています(図1)。しかしながら、磁石のサイズを原子レベルまで小さくすると量子力学的な効果(量子トンネリング)により、エネルギー障壁を超えなくても磁石の向きが反転してしまうことがわかってきました(図2)。したがって、高い磁気的安定性をもった原子磁石の実現のためには、原子の磁気異方性エネルギーを高めるとともに量子トンネリングを抑える必要があります。 研究チームでは2008(平成20)年から金属表面上に塗布した原子磁石の安定性に関する研究を始め、(1)磁気異方性エネルギーは原子1個の磁石としての性質である磁気モーメントの大きさに比例する、(2)磁気モーメントの大きさと原子を塗布する金属表面の対称性をうまく考慮することにより量子トンネリングを抑制できる事を明らかにしていました。 本研究では量子トンネリングを抑制できる六角形状の原子配列をもつ白金表面の上に希土類金属で最大の磁気モーメントをもつホルミウム原子磁石を塗布し(図3)、その情報保持時間を測定しました。<研究手法と成果> ホルミウム原子磁石の情報保持時間を測定するためには、原子レベルで表面観察ができ、さらに原子磁石の磁気モーメントを検出が可能な手法が必要です。そこで研究チームは上記の条件を満たすスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)装置(注1)を2011(平成23)年に新たに開発しました。原子磁石の磁化方向はSP-STMの磁気シグナルを観測することにより判断できます。SP-STM磁性探針と原子磁石の磁気モーメントが平行の場合、磁気シグナルは大きく、反平行の場合、磁気シグナルは小さくなります(図4)。 SP-STM磁性探針をホルミウム原子磁石の上に配置し、磁気シグナルの時間変化を測定した結果、ホルミウム原子磁石はひとつの磁気情報(上向き、下向き)を10分以上保持していることが明らかになりました。観測された情報保持時間は従来の原子磁石と比較して約10億倍と著しく向上されています(図4)。原子磁石の磁気モーメントが上に向いている状態を“1”、下に向いている状態を“0”とすると、今日使われているパソコンや情報端末と全く同じ方式での磁気情報の読み取りが可能になっています。 さらにトンネル電子を介したエネルギー注入により原子磁石の向きを制御できることもわかりました(図5)。このことは原子1個に情報を書き込めることを意味しています。 また、原子磁石に長時間情報を記録するためには磁気モーメントの大きさと原子を塗布する金属表面の対称性が非常に重要であることが理論計算によっても確認されました。<今後の期待> 研究チームでは原子1個の磁石としての性質である磁気モーメントの大きさと原子を塗布する金属表面の対称性をうまく組み合わせることによって原子1個の情報保持時間を劇的に増大できることを初めて明らかにしました。これにより、学術的観点だけでなく、原子サイズの磁気素子を用いた次世代情報ストレージ開発や原子磁石を用いた新方式の量子コンピュータ実現の可能性が期待されます。 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword