今回、東京大学生産技術研究所の沖大幹 教授、金炯俊 助教、佐藤雄亮 大学院生らが参加する気候変動影響評価のモデル相互比較国際プロジェクト“ISI-MIP”(The Inter-Sectoral Impact Model Intercomparison Project)では、水資源・水災害、農業・食糧生産、陸域生態系、健康(マラリア)の4分野を対象とし、5つの気候モデル(※2)が予測する将来の気候条件を合計35の影響評価モデル(※2)に与え統合的な気候変動の影響評価を行った。その結果、複数分野に及んで温暖化の影響を顕著に受ける地域(ホットスポット)として、アマゾン南部、欧州南部、アメリカ中部、アフリカ東部などを特定した。また、気温の上昇に伴い慢性的水不足に分類される地域が増大し、影響を受ける人口も増加すると推計した。
ISI-MIPの成果は、PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)12月17日号の特集記事で9つの論文として発表された。なお、ISI-MIPはドイツ・ポツダム気候影響研究所が主導し、世界13ヶ国合計40の研究機関が参加している国際プロジェクトである。日本からは東京大学のほか、国立環境研究所が参加している。
論文1:“Leaving the world as we know it:Hotspots of global climate change impact” 本論文では水資源・水災害、陸域生態系、農業・食糧生産、健康(マラリア)の4分野それぞれについて注目変数の平均状態が現在と異なる状態に遷移する■GMTを調べ、複数分野にわたって顕著な温暖化影響を受ける地域(ホットスポット)を特定した。温暖化は分野ごとに異なる影響を総合的に扱い議論されるべきテーマであるが、複数の分野に対し横断的に影響を調べる研究は今回が世界初となる。 その結果、アマゾン南部、欧州南部、アメリカ中部、アフリカ東部などがホットスポットに分類された。さらに今回の解析から、(1)■GMTが1980-2010年の平均より3℃ほど高くなると生態系を中心として2つ以上の分野で顕著な影響が表れるケースが急増する、(2)■GMTが4℃になると世界人口の11%が複数分野に亘ってそれぞれの閾値を超える大きな変化を経験する、(3)どの分野についても■GMTが1~3℃となる際に閾値を超える地域が最も増加しており、今後その■GMTを迎える時期に最も大きな環境の変移が生じることが明らかとなった。(図1、2)
論文2:“Multimodel assessment of water scarcity under climate change” 本論文で温暖化の水ストレス(※2)への影響を評価した。本研究は水分野のみを扱い、合計12の水資源・水災害分野の影響評価モデルを用いた解析を行った。ここでは、■GMTの増加に従い河川流量及び水ストレス影響下にある人口がどのように変化するかを調べた。例えば、1980-2010年の平均気温を基準として全球平均の気温が1℃、2℃、3℃上昇(=産業革命前より1.7℃、2.7℃、3.7℃上昇)した場合、気温の上昇に伴い“慢性的水不足(※3)”に分類される地域に住む人口は世界人口の13%、21%、24%、その中でも“絶対的水不足(※3)”に分類されるのは世界人口の6%、9%、12%になると推計された。一方、水ストレスは需要量の増加と供給可能量の減少の両面が原因となりうる。そこで水ストレスの変化の原因のうち温暖化に由来する割合を調べたところ、例えば■GMTが1℃の場合温暖化の寄与は58%程度であるが、その寄与率は人口増加に伴って小さくなることも判明した。 これまでの水分野のモデル比較は流出量の比較などにとどまっており、本研究は初めて複数の影響評価モデルを使用して水ストレスの将来予測を行い、影響モデル間の不確実性も明らかにした。ISI-MIPでは論文1も含めて多くの論文が“気候モデルが予測する気象の不確実性よりも影響評価モデルに由来する不確実性の方が大きい点”を指摘しており、温暖化影響評価におけるモデル比較プロジェクトの有用性を示している。(図3,4)