東京大学理学系研究科の谷本博一研究員と佐野雅己教授の研究グループは、細胞が生み出す物理的な力と細胞の運動との間に成り立つ関係を明らかにした。研究グループはまず牽引力顕微鏡(Traction Force Microscopy)(注2)と呼ばれる手法を用いて、運動する細胞が蛍光ビーズを埋め込んだ柔らかい基盤に与える応力場を測定した。次に測定結果を定量的に解析することで、応力の総和ではなく、空間的な非対称性が細胞の運動方向を決定することを発見した。この力-運動の関係は、外力の総和の方向に運動する非生物のそれとは本質的に異なるものである。
東京大学理学系研究科の谷本博一研究員と佐野雅己教授の研究グループは、多重極展開と呼ばれる手法を導入することで細胞の応力場の空間構造を解析し、応力場の空間非対称性と細胞の運動とが関係していることを明らかにした。多重極展開は複雑なデータを座標の級数で展開することにより、その空間構造をいくつかの簡単な指標で代表させる手法である。この手法は流体物理学・原子核物理学など物理学の様々な分野で応用されている一方で、生物学においてはこれまでほとんど使われていなかった。研究グループは牽引力顕微鏡(Traction Force Microscopy)(注2)を構築し、典型的な運動性細胞である細胞性粘菌の応力場をナノニュートン・マイクロメートルの精度で計測した。さらに得られた測定結果を多重極展開に基づいて解析し、応力場の回転対称性と前後対称性それぞれの破れ(注4)(注5)を特徴づける2つの指標を計算した。その結果、これら2つの指標が細胞の運動方向を決めていることを明らかにした。これは細胞の力と運動との関係を見出した初めての報告である。