2.研究成果の内容 試料には、ポリオール還元法によって合成された銀ナノキューブ粒子と、それを塩化金酸溶液中に浸しガルバニ置換反応によって作製する金/銀ナノボックス粒子を用いました。CXDI実験は、X線自由電子レーザー施設SACLAのBL3にて実施しました。波長2.25オングストローム(Å:100億分の1メートル)のX線自由電子レーザーパルスを1.5マイクロメートル(μm:100万分の1メートル)のスポットサイズに集光し、照射装置“壽壱号(ことぶきいちごう)”(本年9月学術雑誌「Review of Scientific Instruments」【出版社:American Institute of Physics】にて発表済み、本年10月3日プレスリリースhttp://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2013/131003)に導入します。そして、銀ナノキューブ粒子あるいは金/銀ナノボックス粒子を散布した窒化ケイ素膜を壽壱号内の集光面に配置し、1Hzの繰り返しで、X線自由電子レーザーパルスを照射しました。激烈な強度をもつX線パルスは、照射領域にある試料を原子レベルで破壊しますが、破壊が起こる前にX線散乱が生じるため、粒子の構造情報を持つ回折パターンを得ることができます(破壊前の回折:diffraction before destroy)。このため、窒化ケイ素膜を集光面内で二次元的に走査して常に新しい試料粒子を照射野に供給し、レーザーパルスの照射と同期して、単一パルス照射によるコヒーレントX線回折データをX線CCD検出器で収集します(図1)。約10000枚の銀ナノキューブおよび金/銀ナノボックス粒子の回折強度パターンはスクリーニング処理され、孤立粒子にヒットした1000枚の回折パターンが抽出されます。 コヒーレントX線回折パターンは、粒子の微細構造に極めて敏感で、微細構造を反映した斑点模様が観測されます。今回、収集された回折パターンは斑点模様が鮮明であることから、SACLAで得られるX線自由電子レーザーの干渉性が極めて高いことが分かります(図2)。この斑点の大きさは、粒子径の逆数に対応していることから、粒子径を見積もることができます。従って、全ての回折パターンについて、斑点の大きさを調べることで、粒度分布を導出することができます。 1000枚の回折パターンから粒度分布を導出し、ガウス関数で近似したところ、銀ナノキューブについては平均粒子径:144.0nm、金/銀ナノボックスについては平均粒子径:155.4nmという結果が得られました(図3)。粒子径の決定精度は、約3nmであり、極めて高い精度で、粒度分布を導出できていると言えます。銀ナノキューブに比べて金/銀ナノボックスの平均粒子径が大きいのは、ガルバニ置換反応の初期過程において銀ナノキューブの表面に金の層が形成されたからであり、平均粒径の差から約5.7nm厚さの金の層が銀ナノキューブの表面に形成されたという、反応のダイナミクスに関連した知見も得られました。 一方、コヒーレントX線回折パターンに位相回復計算を実行することで、個々の粒子の電子密度投影像を再構成することもできます(図4)。銀ナノキューブからの回折パターンに位相回復計算を実行すると、電子密度が一様であることを反映したコントラストが得られ、粒子端におけるコントラストの変化から分解能を見積もると約7nmであり、X線自由電子レーザーを用いたコヒーレントX線回折イメージングで達成された世界最高の分解能でした。また、金/銀ナノボックスの再構成像は、中空構造を反映した電子密度コントラストが得られていることが分かります。粒子径が大きくなるにつれて、中空構造が大きくなっており、粒度分布の結果と照らし合わせると、多くの粒子で20-40%の領域が中空である部分的な中空構造を有していることが分かりました。