2013/08/27 Category : 未選択 東北大など、植物のストレスに対する応答を調節する3つの新規転写因子を発見 植物のストレスに対する応答を調節する 3つの新規転写因子を発見 【ポイント】 ◆背景:高等植物は転写因子などの作用により、遺伝子発現のONとOFFを巧みに調節して外部からのストレスに適応 ◆新規性:高等植物のストレスに対する応答を抑制する働きを持つ3つの転写因子を発見 ◆今後の展望:植物が持つストレス応答機構を人為的に調節することが可能に 【概要】 東京工業大学地球生命研究所の佐々木結子研究員(前 日本学術振興会特別研究員・理化学研究所植物科学研究センター(当時))、理化学研究所環境資源科学研究センターの白須賢グループディレクターらは高等植物のストレス応答を抑制する3つの転写因子(用語1)を発見した。モデル植物のシロイヌナズナ(用語2)の遺伝子発現データから、ストレス応答時に重要な働きをすると考えられる3つの転写因子を見出し、それらの機能が失われた植物体は過剰なストレス応答を示すことを明らかにした。 これら3つの転写因子はいずれも、一度ONになったストレス応答性遺伝子の発現を適切なタイミングでOFFにする働きを担っており、植物の通常の生育とストレス応答の両立のために重要であると考えられる。今回明らかになった転写因子を、詳細に解析することで、高等植物のストレス応答を適切に調節する仕組みの全容が分子レベルで明らかになることが期待される。 高等植物は、外部環境の変化や外敵からもたらされるストレスに適応するために必要な遺伝子のONとOFFを転写因子などの作用により巧みに制御しているが、これまでにストレス応答をOFFにする転写因子については知られていなかった。 この研究は東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター・太田啓之教授と増田真二准教授、東北大学大学院情報科学研究科・大林武准教授、理化学研究所環境資源科学研究センター・神谷勇治コーディネーターらと共同で行った。研究成果は米国科学雑誌「Plant Physiology(プラント・フィジオロジー)」September2013,163(1)に掲載される。同電子版は2013年7月12日から公開されている。 なお、本研究は、特別研究員奨励費と文部科学省の科学研究費補助金(基盤研究(S))を受け実施された。 【研究の背景と経緯】 高等植物は、外部の環境の変化・動物や昆虫による食害・病原菌などの外部からのストレス要因から、動き回ることによって逃れることができない。そのため、複雑で巧妙なストレス応答機構を発達させてきた。 植物ホルモンであるジャスモン酸は、ストレスを感知した植物内で速やかに合成されることが知られている。ジャスモン酸の存在が植物によって認識されると、植物があらかじめ備えているストレス応答機構のスイッチがONになり、様々なストレス応答遺伝子の発現量が増加する。その結果、エネルギーをストレス応答に回すために通常の生長が抑制されたり、ストレス応答物質の合成が促進されたりする。 このようなストレス応答は一時的な防御機構としては有効だが、継続的にストレス応答が起こると、植物の持つエネルギーの多くがストレス応答につぎ込まれ、植物の通常の生育が妨げられてしまう。そのため、植物はストレス応答を適切にOFFにする仕組みを備えていると考えられるが、その分子的実体については明らかになっていなかった。 【研究内容】 本研究では、モデル植物であるシロイヌナズナの大規模な遺伝子発現データの解析から、ストレス応答に深く関与すると考えられる3つの転写因子「JAM1」、「JAM2」、「JAM3」を見出した。シロイヌナズナの分子生物学的解析から、これらの転写因子がジャスモン酸情報伝達の下流で制御されていることが示された。 さらに、これら3つの転写因子の機能を失った植物体(jamx3)を作成し、この植物体のストレス応答を調べた。その結果、ストレス条件下に置いた場合、正常な植物と比べて生長の抑制が強く起こるために、根が短くなること(図1)、ストレス応答物質であるアントシアニンを正常な植物よりも過剰に合成することが示された(図2)。すなわち、jamx3では一度ストレスを受けるとストレスへの応答が過剰に起こってしまうことがわかった。 以上の結果から、3つのJAM転写因子はいずれも、外部からのストレスによって促進されたストレスに対する適応機構(通常の生長を抑制することや防御物質を蓄積すること)を抑制する働きを持っており、一度ストレス応答をした植物が通常の生長に戻るために必要な因子であると考えられる。 ※図1、2は添付の関連資料「参考資料」を参照 【今後の展開】 今回、3つのJAM転写因子の機能が明らかになったことにより、植物のストレス応答機構を分子レベルで調べることが可能になった。JAM転写因子によるストレス応答の抑制機構は、環境ストレス・傷害・虫害・病害応答において共通であると考えられるため、将来的にはストレス応答の程度を人為的に操作し、より生長に対してエネルギーを振り分けられる植物の作成にも繋がることが期待される。また、植物が進化的にいつ、どのようにしてこのような巧妙なストレス応答機構を獲得したかを知るためにも、重要な指標となる因子であると考えられる。 【用語説明】 (注1)転写因子:DNAに特異的に結合するたんぱく質、DNAの遺伝情報をRNAに転写する過程を制御する役割を持つ。 (注2)シロイヌナズナ:アブラナ科シロイヌナズナ属の一年草、モデル植物としてよく使われる。 以上 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword