1.概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海底資源研究プロジェクトの山本正浩研究員と理化学研究所・環境資源科学研究センターの中村龍平チームリーダーらの共同グループは、沖縄トラフに人工的に作られた深海底熱水噴出孔(人工熱水噴出孔(*1)において熱水と周辺海水の電気化学的な現場測定を行いました。この結果に基づいて、熱水と海水を燃料にできる燃料電池(以下、熱水-海水燃料電池(*2)を人工熱水噴出孔に設置して、深海底での実発電に成功しました。
海底から噴き出す熱水には硫化水素のように電子を放出しやすい(還元的な)物質が多く含まれており、一方で周辺の海水には酸素のように電子を受け取りやすい(酸化的な)物質が多く含まれています。私たちはこの熱水と海水の間に電子の受け取りやすさの違い(酸化還元勾配)があることに注目し、そこから電力を取り出す方法を試験しました。具体的には、熱水噴出孔とその周辺海水にそれぞれ電極を設置するというシンプルな方法で燃料電池を構築し、発電を行いました。この方法は、燃料となる熱水と海水が無尽蔵に供給されることから、電力の長期に渡る安定供給に適しています。これまで海底熱水活動域での発電については温度差や蒸気を利用したものが研究されていますが、それらと比較して本手法は単純な装置で発電でき、また、腐蝕に強く長期に渡り使用可能であると考えられます。今後は、長期的な試験を重ねてこのことを確かめる予定であり、活発化する深海熱水活動域での研究や開発の現場において電力を供給するための重要な技術になると期待されます。
本研究結果は、9月3日(日本時間)付の「ドイツ化学会誌インターナショナル版(Angewandte Chemie International Edition)」オンライン版に掲載されました。また、本成果は現在特許出願中です。
タイトル :Electricity generation and illumination via an environmental fuel cell in deep-sea hydrothermal vents
著者 :Masahiro Yamamoto1、Ryuhei Nakamura2、Kazumasa Oguri1、Shinsuke Kawagucci1、Katsuhiko Suzuki1、Kazuhito Hashimoto3、Ken Takai1
1.Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology(JAMSTEC)、2.RIKEN Center for Sustainable Resource Science、3.Department of Applied Chemistry,The University of Tokyo Doi:10.1002/anie.201302704