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理化学研究所、乳児難治てんかんの突然死抑制効果を発見

させてNav1.1の脳内分布を詳細に調べるとともに、てんかん発作、運動失調、突然死などの症状についてそれらのマウスで比較しました。その結果、全ての細胞でSCN1A遺伝子を欠損させた場合よりも抑制性神経細胞だけで欠損させた場合のほうがより早期で頻回な突然死を引き起こすこと、加えて興奮性神経細胞でSCN1A遺伝子を欠損させると致死性が大きく改善することが分かりました。さらにPV陽性抑制性神経細胞では、わずかなNav1.1の欠損が自発性てんかんを引き起こすに十分であることを初めて発見しました。これらの成果は、乳児難治てんかんの発症機構の解明、有効で副作用の少ない治療法の開発につながるものです。

 本研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の事業として実施され、その成果は科学雑誌『Human Molecular Genetics』12月号に掲載されるに先立ちオンライン版(英国時間8月6日16:00:日本時間8月7日00:00)に掲載されます。


<背景>
 てんかんは、脳神経回路の過剰興奮によって引き起こされる発作を特徴とし、全人口の1%以上が発症する頻度の高い神経疾患です。てんかんには多くの種類があり、その過半数が遺伝的要因によると考えられています。実際に、これまで多数のてんかん原因遺伝子が同定され、そのうちの20個余りの遺伝子が神経細胞の興奮を制御するイオンチャネル[2]タンパク質をコードしています。

 電位依存性ナトリウムチャネルのαサブユニット1型タンパク質「Nav1.1」を作るSCN1A遺伝子は、てんかん原因遺伝子の1つとして知られています。重篤で難治なてんかんを生後1年未満で発症し、さらに自閉症に似た症状や知的障害などの精神発達障害や運動失調などを伴う乳児重症ミオクロニーてんかんでは、患者の約8割にSCN1A遺伝子の機能喪失変異が見つかっています。また、SCN1A遺伝子変異は熱性けいれんプラスなど他のてんかんや、知的障害、自閉症のケースにも広く見いだされてきています。

 共同研究グループは以前に、野生型(正常)マウスにおいてNav1.1が抑制性神経細胞の一種であるパルブアルブミン(PV)陽性抑制性神経細胞で強く発現すること、患者で見いだされたSCN1A遺伝子のナンセンス変異[4]を導入したマウスがてんかん発作を示すこと、さらに当該マウスではNav1.1の量が半分になっており抑制性神経細胞の機能不全が見られることを明らかにし、最近では当該マウスが自閉症に似た社会性行動の異常と記憶学習障害を示すことを報告しています(注)。

 今回、共同研究グループは、マウスを用いて興奮性神経細胞や抑制性神経細胞、さらにその一部のPV陽性抑制性神経細胞などにおいてSCN1A遺伝子を欠損させることにより、Nav1.1の脳内分布を詳細に明らかにするとともに、それぞれの神経細胞種においてNav1.1がてんかん発作、運動失調、突然死などの発症に果たす役割を詳細に調べました。

 注)2007年5月30日プレスリリースhttp://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2007/20070530_1/20070530_1.pdf
   2012年9月27日プレスリリースhttp://www.riken.jp/pr/press/2012/20120927_2/


<研究手法と成果>
 共同研究グループは、コンディショナルノックアウト[5]という手法で、SCN1A遺伝子をマウスの特定の神経細胞種で欠損させ、免疫組織学的手法[6]により詳細にNav1.1の脳内分布を調べるとともに、てんかん発作、運動失調、突然死などの症状についてそれらのマウスで詳細に観察しました。

 乳児重症ミオクロニーてんかんの状態を模して作成した全ての神経細胞においてNav1.1を半減させたマウスは、生後2週間頃からてんかん性けいれん発作を頻発し、約2割のマウスが生後1カ月までに発作に伴う突然死を起こしました。また、抑制性神経細胞だけに発現するVgat[7]遺伝子を利用して抑制性神経細胞だけでNav1.1を半減させたマウスは、重篤なてんかん発作を示すとともに全ての神経細胞においてNav1.1を半減させたマウスより高い致死性を示し、生後1カ月までに全てのマウスが突然死しました。(図1)。このことは、Nav1.1が半減されなかった何らかの神経細胞が、症状をさらに悪化させる働きを持つことを示します。

 主に興奮性神経細胞に発現するEmx1[8]遺伝子を利用して興奮性神経細胞だけでNav1.1を半減もしくは欠損させたマウスでは、てんかん発作や発作に伴う突然死は見られませんでした(図2)。しかし、抑制性神経細胞だけでNav1.1を半減させたマウスで、興奮性神経細胞のNav1.1も半減させると、重篤であったマウスの致死性が大きく改善し、生後1カ月を過ぎても約半数が生き残りました(図3)。この結果は、抑制性神経細胞だけでNav1.1を半減させたマウスにおいて、症状を更に悪化させていた細胞は、Nav1.1を持つ興奮性神経細胞であったことを示しています。

 次に、PV遺伝子を利用してPV陽性抑制性神経細胞だけでNav1.1を半減させたマウスを作製したところ、乳児重症ミオクロニーてんかんに似た自発性てんかん発作が見られました。さらにNav1.1を完全に欠損させたマウスでは、生後1カ月までに発作に伴う突然死と歩行不良による栄養失調で全てのマウスが死滅しました(図4)。また、PV陽性抑制性神経細胞だけでNav1.1発現量がごくわずかに低下するだけでも、自発性てんかん発作を発症するに十分なことが分かりました(図5)。この結果は、PV陽性抑制性神経細胞におけるNav1.1の減少と、それによる機能低下が乳児重症ミオクロニーてんかんの発症の根幹に関与していることを示すものです。

 共同研究グループは、特定の神経細胞でNav1.1を欠損させたマウスと野生型(正常)マウスの脳組織を注意深く比較し、Nav1.1の脳内分布を観察しました。その結果、野生型マウスにおいてNav1.1はPV陽性抑制性神経細胞の軸索に高濃度に発現することに加え(図6)、一部の興奮性神経細胞(内側嗅内皮質-海馬投射細胞、一部の大脳皮質錐体細胞、視床-大脳皮質投射細胞)に低-中濃度で発現していること、海馬の興奮性神経細胞(CA1/CA3錐体細胞、歯状回顆粒細胞)には発現が見られないことなどを明らかにしました(図7)。

 Nav1.1の脳内分布については、世界の複数のグループが相互に異なる報告をして混乱した状況が続いていましたが、本研究はそのような状況に対して一定の決着をつけるものとなりました。Nav1.1のような疾患の原因となる遺伝子産物の組織内分布を正確に理解することは、疾患を理解する上でも不可欠であり、これらの知見はその意味でも非常に重要な意義を持ちます。


<今後の期待>
 今回、Nav1.1が、PV陽性抑制性神経細胞に高濃度に発現することの確認に加え、一部の特定の興奮性神経細胞にも発現すること、さらにモデルマウスにおける興奮性神経細胞と抑制性神経細胞でのNav1.1発現の半減が発症に対してそれぞれ相反する効果を有することを初めて示しました。これらは、有効で副作用の少ない治療法を開発するためには抑制性神経細胞、とりわけPV陽性抑制性神経細胞に治療のターゲットを絞るべきであることを示しています。

 今後、研究グループはこれらのモデルを用いて知的障害や自閉症の発症メカニズムの解明にも取り組み、有効な治療法の開発を目指します。


<原論文情報>
 ・Ikuo Ogiwara,Takuji Iwasato,Hiroyuki Miyamoto,Ryohei Iwata,Tetsushi Yamagata,Emi Mazaki,Yuchio Yanagawa,Nobuaki Tamamaki,Takao K.Hensch,Shigeyoshi Itohara,and Kazuhiro Yamakawa.Nav1.1 haploinsufficiency in excitatory neurons ameliorates seizure-associated sudden death in a mouse model of Dravet syndrome.Human Molecular Genetics,volume 22,doi:10.1093/hmg/ddt331


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 脳科学総合研究センター 神経遺伝研究チーム
 チームリーダー 山川 和弘(やまかわ かずひろ)
PR

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