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理化学研究所、嗅覚の鋭敏さを生み出す新規分子「グーフィー」を発見

害は原因の究明が遅れています。匂いに対する鋭敏さを調節するグーフィーの発見は、嗅覚障害の分子メカニズムを解明する手掛かりになると期待できます。

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金 特定領域研究「細胞感覚」、JST戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「東原化学感覚シグナルプロジェクト」の一環として行われ、米国の科学雑誌『The Journal of Neuroscience』に掲載されるに先立ち、オンライン版(8月7日付け:日本時間8月8日)に掲載されます。


<背景>
 五感の1つである嗅覚は、多くの生物にとって食べ物の探索、危険の感知、記憶の想起、情動の発現など生命活動に重要な役割を果たしています。特に野生の動物においては、最初に餌を見つける、いち早く敵に気付く、繁殖のためのパートナーを見つける、といった本能的な生命の営みに嗅覚を用いており、匂いに対して敏感でなければ生き残ることも子孫を残すこともできません。

 匂いの成分である多種多様な化学物質(匂い分子)は、鼻腔内の嗅上皮に存在する嗅細胞で受容されます。嗅細胞は鼻腔表面に嗅繊毛を広げており、この嗅繊毛には嗅覚受容体[5]をはじめ、GTP結合タンパク質(Golf)、アデニル酸シクラーゼIII(cAMP合成酵素)、cAMP依存的陽イオンチャネルなどの嗅細胞特有の細胞内情報伝達分子群が集積しています。嗅覚受容体に結合した匂い分子の情報は、これらシグナル伝達分子群の連続的な働きによって、効率的に電気信号へと変換され、神経の興奮をもたらします(図1)。そしてその情報は脳の嗅球へ、さらには高次嗅覚中枢(梨状皮質、扁桃体など)へと送られ、匂いの認識、識別、記憶、情動の変化、誘引あるいは忌避行動などが誘起されます。

 1991年に米国コロンビア大学のリンダ・バック博士とリチャード・アクセル博士が嗅覚受容体遺伝子群を発見(2004年ノーベル医学生理学賞受賞)して以来、約20年間に嗅覚研究は飛躍的な進展を遂げ、匂いの受容機構と鼻から脳への神経配線様式については多くの部分が解明されてきました。しかし、匂いの知覚における鋭敏さを生み出す分子メカニズムについては何も分かっていませんでした。

 そこで、研究チームは、匂いの受容機構の要となる嗅細胞に存在するタンパク質を全体的に調べることで、嗅覚機能を司る重要分子を発見することを目指しました。


<研究手法と成果>
 (1)嗅細胞に発現するタンパク質「グーフィー(Goofy)」の発見
   研究チームは、マウス嗅細胞に存在する膜タンパク質・分泌タンパク質の網羅的解析を目指して、マウス嗅上皮からRNAを精製し、それらに相補的な配列を持つcDNAのライブラリーを作製しました。酵母を用いたシグナル配列トラップ法[6]によるスクリーニングを行うことにより、マウス嗅上皮のcDNAライブラリーから、新規タンパク質をつくる12種類の遺伝子を発見しました。そのうちの1つがつくるタンパク質は、匂いを受容する嗅細胞とフェロモンを受容する鋤鼻(じょび)感覚細胞に強く発現しており、私たちは「グーフィー(Goofy;Golgi protein in olfactory neurons)」と名付けました。また、グーフィーを認識する抗体を作製し、嗅上皮切片の免疫組織化学的染色を行った結果、グーフィーは嗅細胞内で膜タンパク質や分泌タンパク質の修飾や細胞内輸送を担う、ゴルジ体という細胞内小器官に局在することが明らかとなりました。

   さらにグーフィー遺伝子に緑色蛍光タンパク質(GFP)[7]遺伝子をつないだ遺伝子改変マウスを作製したところ、GFP蛍光はマウスの鼻の嗅細胞と鋤鼻感覚細胞だけで明るく観察され、他の組織や臓器では全く確認できませんでした(図2)。この結果から、グーフィーは嗅覚機能における何らかのユニークな役割を果たすことが示唆されました。

 (2)グーフィーは嗅覚の鋭敏さに必要不可欠
   グーフィーの機能を調べるため、グーフィー遺伝子を欠損させたマウスを作製し、その異常の有無を野生型マウスと比較しました。その結果、グーフィー遺伝子欠損マウスでは、鼻腔表面に広がっている嗅繊毛が通常より短くなっていることが分かりました(図3)。また、匂いの情報を電気信号に変換する過程で重要な働きをする酵素「アデニル酸シクラーゼIII」が、嗅繊毛だけでなく嗅細胞の軸索や嗅球の神経終末にも多量に存在しており、細胞内局在に異常があることが分かりました。また、さまざまな匂い分子に対する嗅上皮の電気生理学的応答を測定したところ、正常なマウスに比べて、グーフィー遺伝子欠損マウスでは嗅細胞の反応が鈍くなっていました(図4)。さらに、マウスにとって天敵であるキツネの糞由来の匂い分子(TMT;2,4,5-トリメチルチアゾリン)をグーフィー遺伝子欠損マウスに嗅がせたところ、高濃度のTMTに対しては正常マウスと同様にすくんだり、匂いのある側を避ける忌避行動を示したりしましたが、低濃度のTMTに対しては忌避行動が見られないという異常が観察されました(図5)。これらの実験結果により、グーフィーは嗅覚を敏感に感じ取るのに重要な役割を担っていることが分かりました。


<今後の期待>
 嗅覚は、多くの動物にとって生存に関わる大きな役割を担っており、匂いを敏感に感じ取れることは生き残る上で非常に有利となります。また私たち人間にとっても、正常かつ鋭敏な嗅覚はQOL(Quality of Life)を高めるために重要な感覚です。しかし、視覚障害や聴覚障害と比べて、嗅覚障害についてはその原因の究明が遅れています。匂いに対する鋭敏さに関連するタンパク質グーフィーの発見は、嗅覚障害の分子メカニズムを解明する手掛かりになると期待できます。


<原論文情報>
 ・Tomomi Kaneko-Goto,Yuki Sato,Sayako Katada,Emi Kinameri,Sei-ichi Yoshihara,Atsushi Nishiyori,Mitsuhiro Kimura,Hiroko Fujita,Kazushige Touhara,Randall R.Reed,and Yoshihiro Yoshihara."Goofy Coordinates the Acuity of Olfactory Signaling".The Journal of Neuroscience,2013 doi:10.1523/JNEUROSCI.4948-12.2013


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 脳科学総合研究センター(http://www.riken.jp/research/labs/bsi/
 シナプス分子機構研究チーム(http://www.riken.jp/research/labs/bsi/neurobiol_synap/
 チームリーダー 吉原 良浩(よしはら よしひろ)
PR

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