<研究手法と成果>
(1)嗅細胞に発現するタンパク質「グーフィー(Goofy)」の発見
研究チームは、マウス嗅細胞に存在する膜タンパク質・分泌タンパク質の網羅的解析を目指して、マウス嗅上皮からRNAを精製し、それらに相補的な配列を持つcDNAのライブラリーを作製しました。酵母を用いたシグナル配列トラップ法[6]によるスクリーニングを行うことにより、マウス嗅上皮のcDNAライブラリーから、新規タンパク質をつくる12種類の遺伝子を発見しました。そのうちの1つがつくるタンパク質は、匂いを受容する嗅細胞とフェロモンを受容する鋤鼻(じょび)感覚細胞に強く発現しており、私たちは「グーフィー(Goofy;Golgi protein in olfactory neurons)」と名付けました。また、グーフィーを認識する抗体を作製し、嗅上皮切片の免疫組織化学的染色を行った結果、グーフィーは嗅細胞内で膜タンパク質や分泌タンパク質の修飾や細胞内輸送を担う、ゴルジ体という細胞内小器官に局在することが明らかとなりました。
<今後の期待>
嗅覚は、多くの動物にとって生存に関わる大きな役割を担っており、匂いを敏感に感じ取れることは生き残る上で非常に有利となります。また私たち人間にとっても、正常かつ鋭敏な嗅覚はQOL(Quality of Life)を高めるために重要な感覚です。しかし、視覚障害や聴覚障害と比べて、嗅覚障害についてはその原因の究明が遅れています。匂いに対する鋭敏さに関連するタンパク質グーフィーの発見は、嗅覚障害の分子メカニズムを解明する手掛かりになると期待できます。
<原論文情報>
・Tomomi Kaneko-Goto,Yuki Sato,Sayako Katada,Emi Kinameri,Sei-ichi Yoshihara,Atsushi Nishiyori,Mitsuhiro Kimura,Hiroko Fujita,Kazushige Touhara,Randall R.Reed,and Yoshihiro Yoshihara."Goofy Coordinates the Acuity of Olfactory Signaling".The Journal of Neuroscience,2013 doi:10.1523/JNEUROSCI.4948-12.2013