2013/08/08 Category : 未選択 理化学研究所、社会性や情動に関する行動を制御する因子をマウスで発見 。 多くの細胞内タンパク質は、合成と分解を常に繰り返して新陳代謝をしています。主な分解経路として、ユビキチン・プロテアソーム系[5]があります。この系では、E3ユビキチンリガーゼ[6]と呼ばれるタンパク質が分解の標的となるタンパク質に目印となるユビキチンを結合させ、その目印を持ったタンパク質が細胞内の分解工場の1つであるプロテアソームに運ばれて、分解されます。したがって、このシステムではE3ユビキチンリガーゼが標的タンパク質の認識に重要な役割を果たします。2008年に研究チームは、脳に発現する小胞体膜上のタンパク質「RINES」が、E3ユビキチンリガーゼとしての活性を示すことを発見しました。このRINESの役割を明らかにするため、RINES欠損マウスを作製し、研究していたところ、外見上は正常な同腹の野生型マウスとまったく同じでしたが、その行動に異常があることに気が付き、RINESの機能と情動の関係性について詳しい検証に挑みました。 <研究手法と成果> 研究チームは、RINES欠損マウスと野生型マウスに対して、いくつかの行動実験を行いました。その結果、野生型マウスに比べてRINES欠損マウスの不安傾向が強いことが分かりました(図1)。また、不快感をもたらす微弱な電気刺激や強制的な水泳のストレスに対しての回避行動などの反応性が、RINES欠損マウスでは低下する、などの情動反応の異常を示しました。さらに、侵入者として今まで会ったことのないマウスと一緒にしてやると、正常マウスよりも長く相手に接触する(社会的な接触、親和性の増加)ことが分かりました(図2)。 これらの行動の異常から情動の変化が予想されたので、研究チームはRINES欠損マウスの脳の各部位で安静時と不快な刺激後にモノアミン量を調べることにしました。その結果、不快な刺激後、ノルアドレナリンとセロトニンの両方の量が、青斑核[7]という部位で正常マウスより低くなることが分かりました。青斑核ではMAO-Aの酵素活性が特に高いことが知られていることから、青斑核のMAO-Aの定量を行いました。その結果、青斑核でMAO-Aの酵素活性が20%ほど高く、その量も増えていることが明らかになりました。一方で、MAO-Aの産生過程について検討しましたが、その差は認められず、MAO-A量の増加は、産生が増えているせいではないことが分かりました。これらのことから、RINES欠損マウスでは、MAO-Aの分解が低下している可能性が考えられました。 次に研究チームは、実際にRINESが直接MAO-Aの分解に関与するのかどうかを検討してみました。その結果、培養細胞内でRINESはMAO-Aに結合して、ユビキチン化とタンパク質分解を促進することが分かりました。また、RINES欠損マウスの青斑核から抽出したMAO-Aでは、ユビキチン化の程度が減少していました。以上から、RINESがMAO-Aを標的としてその分解を促進することが明らかになりました(図3)。 さらに、RINES欠損マウスに表れた行動異常がMAO-Aの変化を反映しているのかどうかを検討するために、モノアミンオキシダーゼ阻害剤をRINES欠損マウスに投与して、その影響を情動行動異常において評価しました。その結果、RINES欠損マウスは正常マウスと異なった反応を示し、複数の行動評価項目で異常行動が改善しました。これらのことから、モノアミンオキシダーゼの量的な変化がRINES欠損マウスの行動異常に関係していることが確かめられました。 <今後の期待> 興味深いことに、RINES欠損マウスで観察された不安の増強や社会的な接触の増加といった行動異常は、MAO-A量の低下と関連した症状(ヒトのブルンナー症候群など)と逆になる一方で、MAO-A過剰と関連した症状(不安症状)とは類似しています(図4)。今回の発見は、MAO-A量の制御機構の新たな一面を明らかにしたものであり、情動障害や行為障害[8]の発症機構の理解に貢献するものとなりそうです。 さらに、ヒトにおけるMAO-A量低下による攻撃性は、幼児期の虐待などにより、その症状が顕著に出ることも明らかになっています。そこで研究チームではRINES欠損マウスの若齢期における異常にも注目しています。 また、ヒトにおけるRINESの変異が不安または攻撃性などの社会性行動の多寡と関連があるかどうかを検討することも重要です。今後、これらの点が解明されると、RINESを標的とした抗不安薬などの創薬の可能性を考える上で重要な知見になると期待できます。 <原論文情報> ・Miyuki Kabayama,Kazuto Sakoori,Kazuyuki Yamada,Veravej G.Ornthanalai,Maya Ota,Naoko Morimura,Kei-ichi Katayama,Niall P.Murphy,and Jun Aruga."Rines E3 Ubiquitin Ligase Regulates MAO-A Levels and Emotional Responses."The Journal of Neuroscience,2013.doi:10.1523/JNEUROSCI.5717-12.2013 <発表者> 独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター(http://www.riken.jp/research/labs/bsi/)行動発達障害研究チーム チームリーダー 有賀 純 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword