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理化学研究所と慶大、思春期特発性側彎症の重症化に関連するゲノム領域を発見

思春期特発性側彎(そくわん)症(AIS)の重症化に関連するゲノム領域を発見
-AISの重症化の原因の解明や新たな治療法の開発への突破口に-


<ポイント>
 ・日本人と中国人に共通した重症のAISに関連するゲノム領域を初めて同定
 ・17番染色体に存在する2つの遺伝子が側彎の重症化に関与する可能性
 ・AISの遺伝子診断や予測法の開発に着手、発症や進行のリスク把握につながる


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)と慶應義塾大学医学部整形外科脊椎外科研究グループ(松本守雄准教授ら)は、思春期特発性側彎症(AIS:Adolescent Idiopathic Scoliosis(*))の重症化に関連する新たなゲノム領域を発見しました。これは、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)骨関節疾患研究チームの三宅敦研究生(元慶應義塾大学整形外科学教室助教)、池川志郎チームリーダーと、側彎症臨床学術研究グループ[1](松本守雄准教授ら)との共同研究グループによる成果です。

 *の文字の正式表記は添付の関連資料を参照


 側彎症は背骨が曲がる疾患で、多くは原因が特定できない特発性側彎症というタイプです。特発性側彎症の中で最も発症の頻度が高いのが、思春期に起きるAISで、全世界で人口の約2%にみられます。AISの発症・進行には遺伝的要因が関与すると考えられ、世界中でその原因遺伝子の探索が行われています。発症に関連する遺伝子について、理研の骨関節疾患研究チームと慶應義塾大学医学部整形外科脊椎外科研究グループは、ゲノムワイド相関解析[2]によって2011年に「LBX1」を、2013年5月に「GPR126」を発見しました。しかし、これらの遺伝子は側彎の発症には関与しますが、重症化は関連性が見いだせませんでした。そこで、共同研究グループはAISの重症化に関与する遺伝子の同定を試みました。

 三宅研究生らは、日本人のAIS患者のうち側彎の角度が40度以上の重症群だけに限定し、対照者と合わせて約12,000人の集団について、ヒトのゲノム全体をカバーする55万個の一塩基多型(SNP)[3]を2段階相関解析を用いて調べました。その結果、重症AISと非常に強い相関を示すSNPが17番染色体上に見つかりました。このSNPとAISの相関は、中国人の集団を用いた同様な相関解析でも確認できました。SNPは、SOX9、KCNJ2という遺伝子の近くに存在し、これら2つの遺伝子はいずれも、その症状に側彎症を含む骨系統疾患の原因遺伝子であることから、AISとの関連が強く示唆されました。

 本研究では、世界で初めてAISの重症化に関連するゲノム領域を発見しました。今後、発見されたSNPとSOX9、KCNJ2との関連をさらに詳しく調べることで、分子レベルでAISの病態の理解が進み、新しいタイプの治療法の開発が期待できます。
 本研究成果は、オンライン科学雑誌『PLOS ONE』に(米国時間9月4日付:日本時間9月5日付)に掲載されます。


<背景>
 側彎(そくわん)とは、背骨が横に曲がった状態をいいます(図1)。ヒトの背骨は完全に真っ直ぐではありませんが、曲がりの角度が10度以上になると病的(側彎症)と考えられています。曲がりの角度が20度を超えると、装具の着用など何らかの治療をする必要が生じ、40度を超えると、多くの場合手術治療が必要となります。さらに重度になった場合は、肺機能が低下し、腰痛や背部痛の発症が増加するとされています。進行すると治療が困難になるので、早期発見と進行予測が大切です。

 側彎症を引き起こす原因はさまざまで、神経麻痺や筋ジストロフィーなど明らかな疾患に続いて起こることもありますが、多くは原因が特定できない特発性側彎症と呼ばれるタイプのものです。特発性側彎症は、発症時期などによりいくつかのタイプに分けられます。そのうち、最も発症頻度が高いのが、10歳以降に発症・進行する思春期特発性側彎症(Adolescent Idiopathic Scoliosis:AIS)で、全世界で人口の約2%にみられる発症頻度の非常に高い疾患です。日本では学校保健法により側彎の学校検診が義務付けられているなど、社会的にも大きな問題となっています。

 過去の疫学研究などから、AISは遺伝的因子と環境的因子の相互作用により発症する多因子遺伝病であることが明らかになっています。これまで世界中の研究グループが連鎖解析や候補遺伝子アプローチによる相関解析など、さまざまな手法を用いてAISの原因遺伝子の探索を行ってきました。理研統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム(池川志郎チームリーダー)と側彎症臨床学術研究グループ(松本守雄慶應義塾大学准教授ら)とは、2011年に世界に先駆けAIS発症に関連する遺伝子(疾患感受性遺伝子)「LBX1」注1)を、2013年には「GPR126」注2)を同定しました。

 一方で、AISはその発症だけでなく曲がりの角度の進行にも遺伝的因子が関連することが明らかになっています。これまで発見された遺伝子は、いずれも発症には関与しますが、側彎の重症化には、関連しませんでした。そこで、同研究グループは過去のAISの遺伝子研究から、対象とする患者を曲がりの角度が40度以上である重症者のみに限定し、ゲノムワイド相関解析を再施行することにより、AISの重症化に関与する遺伝子の同定を試みました。

 注1)2011年10月24日プレスリリース(慶応義塾大学ホームページ)
   http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2011/kr7a43000007vdug.html
 注2)2013年5月13日プレスリリース(理研ホームページ・慶応義塾大学ホームページ)
   http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130513_1/
   http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2013/kr7a4300000c0lvb.html


<研究手法と成果>
 理研の骨関節疾患研究チームと慶應義塾大学医学部整形外科脊椎外科研究グループは、側彎症臨床学術研究グループによる厳格な診断基準のもとに詳細な臨床情報とともに収集された日本人の重症AIS患者(曲がりの角度が40度以上の人)554人と対照者1,474人のDNAサンプルを用いて、ゲノムワイド相関解析を行いました。ヒトのゲノム全体をカバーする約55万個の一塩基多型(SNP)を調べたところ、すでに2011年に報告した10番染色体上の3つのSNP、2013年に報告した6番染色体上の2つのSNPで強い相関が認められたほか、新たに17番染色体上にも強い相関を示すSNPが1つ存在しました。この17番染色体上のSNP(rs12946942)は過去にAISの発症にかかわるSNPとして相関が認められていないことから、AISの重症化すなわち曲がりの角度の進行に関与することが考えられました。

 この結果の確認のために、別の重症AIS患者268人と対照者9,823人からなる日本人の集団について調べたところ、このSNPの相関が再現されました。2つの集団の結果を統合すると、P値[2](偶然にそのようなことが起こる確率)は4.00×10の-8乗にもなり、日本人ではこのSNPを持つと重症AISとなるリスクが2.05倍も高まることが分かりました(表1)。さらに、中国・南京大学の協力を得て、重症AIS患者571人と対照者326人からなる中国人の集団について調べたところ、このSNPの相関が再現されました。したがって、このSNPが複数の人種においてAISの重症化に関与することが分かりました。

 続いてこのSNPについて、ゲノム上の位置を調べた結果、SOX9という遺伝子の880kb上流に、KCNJ2という遺伝子の1,000kb下流に存在しました。SOX9は屈曲肢異形成症、KCNJ2はアンダーセン症候群という骨系統疾患(骨関節の単一遺伝子病)の原因遺伝子であることが分かっており、これらの疾患にはその主要な症状の一つに側彎症が含まれます。したがって、このSNPとこれらの遺伝子の関連性が明らかになれば、このSNPとAISの重症化との関連がより強く示唆されると考えました。そこで過去の研究を調べたところ、このSNPはSOX9の発現を制御する領域に存在することが明らかになりました。つまり、SOX9の発現量を調節することで側彎を重症化させると考えらます。また、KCNJ2との直接の関連は明らかになりませんでしたが、この領域の欠損によって発症する疾患の報告があり、このSNPとKCNJ2の両方とも欠損している疾患ではその症状に側彎症が含まれました。しかし、KCNJ2だけ欠損している疾患の場合には側彎症が含まれませんでした。このことから、このSNPを含む領域にAISの重症化を制御する機構がある可能性も考えられます。


<今後の期待>
 本研究では、世界で初めてAISの重症化に関連する遺伝子の存在する領域を発見しました。あらかじめ側彎の重症化を予測することは、手術の必要性や時期など治療方針を決定するのに非常に重要です。今後、SOX9、KCNJ2、およびこのSNPを含むゲノムの領域の機能解析やAISの重症化に関わる新たな経路をさらに詳しく調べることで、分子レベルにおいてAISの進行のメカニズムへの理解が進み、治療薬の開発、さらに患者の遺伝子情報と臨床情報に基づいたテーラーメイドの治療法が期待できます。


<原論文情報>
 ・Atsushi Miyake,Ikuyo Kou,Yohei Takahashi,Todd A Johnson,Yoji Ogura,Jin Dai,Xusheng Qiu,Atsushi Takahashi,Hua Jiang,Huang Yan,Katsuki Kono,Noriaki Kawakami,Koki Uno,Manabu Ito,Shohei Minami,Haruhisa Yanagida,Hiroshi Taneichi,Naoya Hosono,Taichi Tsuji,Teppei Suzuki,Hideki Sudo,Toshiaki Kotani,Ikuho Yonezawa,Michiaki Kubo,Tatsuhiko Tsunoda,Kota Watanabe,Kazuhiro Chiba,Yoshiaki Toyama,Yong Qiu,Morio Matsumoto,and Shiro Ikegawa.
 “Identification of a susceptibility locus for severe adolescent idiopathic scoliosis on chromosome 17q24.3”PLOS ONE,2013,doi:10.1371/journal.pone.0072802


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 統合生命医科学研究センター(http://www.riken.jp/research/labs/ims/
 骨関節疾患研究チーム(http://www.riken.jp/research/labs/ims/bone_joint_dis/
 チームリーダー 池川 志郎 (いけがわ しろう)

 慶應義塾大学医学部 整形外科学教室 准教授
 松本 守雄(まつもと もりお)

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