2013/12/12 Category : 未選択 JST、スポンジのような弾力性がありメスでも切れる人工骨の開発に成功 スポンジのような弾力性があり、メスでも切れる人工骨の開発に成功(JST委託開発の成果)<ポイント> >骨折などで欠損した骨組織を修復する治療では、自分の骨に近い人工骨のニーズが高い。 >骨と同じ成分・組成からなる人工骨で弾力性があり、手術時の操作性が向上。 >臨床試験により、術後早期に人工骨に置換されることを確認。 >医療機器の製造販売承認、保険適用を受け、今後普及が期待される。 JST(理事長中村道治)は、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「生体置換型有機無機複合人工骨の製造技術」の開発結果を成功と認定しました。 この開発課題は、東京工業大学大学院理工学研究科田中順三教授らの研究成果をもとに、平成15年3月から平成24年3月にかけてHOYA株式会社(代表執行役最高経営責任者(CEO)鈴木洋、本社住所東京都新宿区中落合2-7-5、資本金62億円)に委託して、同社ニューセラミックス事業部(会社分割により現在はHOYA Technosurgical株式会社)にて企業化開発(開発費約4.2億円)を進めていたものです。 これまで市販されている人工骨注1)は、移植後に元の骨と一体化する吸収置換性が低く、もろくて操作性が良くないなどの理由により、骨移植治療で使用される割合は40%にとどまっています。このため、骨移植治療の60%は自家骨(患者本人の骨)や同種骨(患者以外の人から提供された骨)が使用されています。人口の高齢化に伴う骨折、骨腫瘍などの骨移植を必要とする症例の増加を見据えて、自家骨と同等の性能を持つ人工骨のニーズが高まってきています。 今回開発した人工骨は、骨と類似した成分組成(水酸アパタイト注2)とコラーゲン注3))で作製したスポンジ状の多孔質体です。この人工骨は弾力性を持つため、材料自身が変形し、複雑な形状の骨欠損部に対して補てん不良を生じずに補てんできます。さらに、メスなどで簡単に切断・加工できることから、従来製品と比較して手術時の操作性を大幅に向上させることに成功しました。また、ヒトの骨と極めて類似している構造と組成を持つため、骨の新陳代謝の働きで次第に自分の骨と馴染んでいき、最終的には人工骨が新たに形成された骨と置き換わります。臨床試験では、従来製品と比較して術後早期に自家骨に置換することが確認されました。本品は販売名「リフィット」として平成24年6月に医療機器製造販売承認を取得し、平成25年1月に保険適用を受けました。 現在、骨移植治療で使用される人工骨の国内市場は約100億円とされていますが、本品が広く普及することで自家骨の代替として人工骨の使用率が拡大し、市場の成長が加速するものと期待されます。 独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。本事業は、現在、「研究成果最適展開支援プログラム【A-STEP】」に発展的に再編しています。詳細情報http://www.jst.go.jp/a-step/ 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。<(背景)セラミックス製の従来の人工骨に替わる新しい人工骨が望まれています。> 骨腫瘍や骨折などで欠損した骨組織を修復する治療において、従来は自家骨の移植が中心でした。自家骨は活性を保ったまま移植するため、骨再生に優れ免疫や感染の問題がない長所がある反面、採取量の限界、2次的侵襲や採取部位に残る痛みなど患者への負担が大きいといった欠点がありました。この理由からセラミックスを用いた人工骨が1970年代に開発され、現在では多くの手術で使われています。 平成21年時点での人工骨の使用割合は約40%ですが、あと約60%は自家骨が使用されています(図1)。いまだに自家骨が使用されている最も大きな理由は自家骨が人工骨よりも骨再生に優れているためで、骨再生に優れた人工骨があれば、自家骨の使用を減らすことが可能と考えられています。 このような状況の中、より早期に骨再生を達成する目的でこれまで人工骨の主成分として一般的であった水酸アパタイトではなく、吸収置換性に優れるβ型リン酸3カルシウムを用いた人工骨が開発され、整形外科分野で高い評価を得ています。しかし、手術の使用実績が多くなるにつれ、β型リン酸3カルシウムはもろく手術時の操作性が難しく、一部の症例において材料のみの吸収が先行し充分な骨再生が得られない、材料が残留し骨再生が遅れるなどの問題点が報告されるようになっており、従来製品の短所を克服する新しい人工骨の開発が望まれてきました。<(内容)生体骨と類似した構造組成を持つ新しい人工骨を開発しました。> 従来製品の問題点を克服するために、以下の3点のコンセプトに基づき人工骨を開発しました。 1.弾力性を持たせることで手術時の操作性を向上させる 2.生体骨と同じ成分・組成を持つ 3.生体内で自家骨への吸収置換性を持つ1.弾力性を持たせて手術時の操作性を向上させる 今回開発した人工骨は、既存のセラミックス人工骨の短所である"もろさ"を克服するために、生体高分子であるコラーゲンと複合化することでセラミックス人工骨にはない弾力性を付与しました(図2)。その結果、人工骨もしくは自家骨を加工せずにそのままつまんで、術場にあるメスやハサミなどで簡単に加工できることから、手術時の人工骨の操作性を大幅に向上させることに成功しました。また、弾力性があり材料自身が変形可能なため、複雑な形状の骨欠損部に対して補てん不良を生じずに補てんできます。この"弾力性"は従来製品にはない新たな機能です。2.生体骨と同じ成分・組成を持つ 一部の症例における材料のみの吸収や材料の残留による骨形成不全を克服するため、本品は生体骨と類似した成分組成(1型コラーゲンと水酸アパタイト)としました(表1)。これは生体骨と類似させることで、人工骨が生体内の骨代謝サイクル注4)に取り込まれ、その結果として自家骨へ早期に吸収置換することをねらったものです。3.生体内で自家骨への吸収置換性を持つ 生体骨と類似した成分組成とすることで、従来製品より優れた「吸収置換性」を持ちます。有効性確認試験結果では、ウサギの脛骨内に直径5mmの欠損を作製し、直径5mm厚さ3mmの本品を埋植後、12週まで経過を観察しました。試験結果より、本品が骨欠損部に移植された場合、生体内の骨代謝サイクルに取り込まれ、骨芽細胞による人工骨周囲および内部での骨形成と破骨細胞による人工骨の吸収が同時に起こり、最終的に自家骨へ置換されることが確認されました(図3)。<(効果)自家骨や既存製品の代替、さらには再生医療など幅広い分野での利用が期待されます。> 臨床試験において骨形成を評価した結果、術後24週における本品の著効率(人工骨が完全に吸収され、自家骨と同一な状態)は65.1%、一方、対照として設定した従来製品は44.4%であったため、本品の優位性が確認されました(図4)。従来製品は臨床的有用性が認められ、広く臨床使用されている医療機器ですので、本品は従来品の臨床的有用性をさらに上回るものと期待できます。本人工骨は販売名「リフィット」として平成24年6月に医療機器製造販売承認を取得し、平成25年1月に保険適用を受けました。現在では、一部の医療機関の手術に使用されています。 従来製品の短所を克服した本品は自家骨や従来製品の代替となるだけでなく、再生医療での足場材料としての利用など幅広い分野での利用が期待されます。現在、骨移植治療で使用される人工骨の国内市場は約100億円とされていますが、本品が広く普及することで自家骨の代替として人工骨の使用率が拡大し、市場の成長が加速するものと期待されます。 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword