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JST、母体の体質と感染・炎症の相互作用で早産が起きる仕組みを発見

母体の体質と感染・炎症の相互作用で、早産が起きる仕組みを発見
―新しい早産予防の糸口―


<ポイント>
 >早産は体質、高年齢、感染、炎症などの因子が複雑に絡み合って発生する
 >母体(体質)と環境因子(感染)の相互的作用で早産が高頻度に誘発される
 >母体側の因子と環境因子に対する複合的治療が有効―将来の早産の予防法の開発に期待

 JST課題達成型基礎研究の一環として、廣田泰JSTさきがけ研究者(東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座研究員)らは、体質などの母体側因子と感染・炎症の組み合わせが早産の発生を高めていること、およびその仕組みをマウスで発見し、この仕組みに関わる経路を複合的に抑える早産予防法の可能性を明らかにしました。
 早産は妊娠の約5%で起きています。これは、体質、高年齢での妊娠などの母体側の因子に感染・炎症などの環境因子、多胎などの因子が複雑に絡み合って発生すると考えられ、現在の子宮収縮抑制剤や抗生剤などの対症的治療では克服が困難です。早産の研究では,母体側因子や感染・炎症などを合わせた多面的アプローチによる研究モデルが必要でしたが、これまで適切なモデルがありませんでした。
 本研究グループは、これまで約半数の個体が早産を自然に起こす早産体質のマウスモデルを確立しています。今回、そのマウスにさらに環境因子として通常では無害の量の細菌成分を投与すると、100%早産になることを発見しました。そして、その早産発生の仕組みとして、母体側の因子としては、たんぱく質「mTOR(エムトール)(注1)」による子宮の細胞老化(注2)が関与しており、環境因子としては感染や炎症により「妊娠ホルモン」である黄体ホルモン(プロゲステロン)(注3)の低下が関わっていることを明らかにしました。また、マウスモデルでmTOR阻害剤と黄体ホルモンの同時投与により、早産の予防に有効であることも分かりました。
 本研究で発見した早産の発生に関わる仕組みに着目することによって、早産の新しい予防法の確立につながることが期待されます。
 本研究は、米国・シンシナティ小児病院のエスケイ・デイ教授の協力を得て行いました。本研究成果は、2013年8月27日(米国東部時間)に米国科学誌「The JournalofClinicalInvestigation」のオンライン速報版で公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)
  研究領域  :「炎症の慢性化機構の解明と制御」
           (研究総括:高津聖志富山県薬事研究所所長)
  研究課題名 :「マウス生殖モデルを用いた、老化が誘導する炎症メカニズムの解明」
  研究者    :廣田泰(科学技術振興機構さきがけ研究者/東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座研究員)
 研究実施場所 :東京大学 医学部 産婦人科学教室
 研究期間    :平成23年4月~平成26年3月

 JSTはこの領域で、炎症の慢性化機構という現象の実体解明に向けた研究を行い、それにもとづき、がん・動脈硬化性疾患・アレルギー・自己免疫疾患などの炎症の慢性化が関与するさまざまな疾患の予防や治療、創薬につながる新たな医療基盤の創出を目指しています。上記研究課題では、近年、生殖医療において大きな課題となっている高齢妊娠などによる早産のリスク上昇へ関与する慢性炎症機序の詳細を解明するため、マウスモデルを用いて細胞老化調節の鍵であるp53やp21が子宮の慢性炎症や早産へ与える影響を観察し、老化が誘導する炎症の分子メカニズムを検討しています。さらに、早産のメカニズムや新たな早産予防法の可能性についても検証しています。

<研究の背景と経緯>
 新生児の死亡や産後障害の原因となる早産は、医学が進歩した現代でも制御が困難です。世界では毎年1300万件の早産とそれに伴う300万件の死産が起こっています。また年間100万件の新生児死亡のうちほぼ30%が早産に起因したものです。これらの報告は、早産という問題の深刻さを示しています。早産の原因として体質、感染に伴う炎症、高年齢での妊娠、体外受精・胚移植の増加、多胎による子宮筋の過伸展(多胎・羊水過多)、子宮頸管の異常、プロゲステロンに対する感受性の低下、などの関与が示唆されており、早産はこれらの因子が複雑に絡み合った多因子疾患と考えられています(図1)。現在の治療法は子宮収縮抑制剤や抗生剤などの対症的なアプローチに限定されていて、新規療法を確立するためには早産に対する新たな視点からの基礎研究の展開が課題となっています。
 しかし、多因子が原因となる早産を研究するにあたって、体質や年齢などの母体側の因子や感染・炎症で代表される環境因子などを合わせた多面的なアプローチによる研究モデルが必要ですが、これまでは適切なモデルがありませんでした。細胞老化とは不可逆的に細胞増殖が止まった細胞の状態であり、加齢や細胞のさまざまなストレスに伴って老化細胞が増加することが知られています。本研究グループは最近、この老化細胞が妊娠子宮に起こり、さらに子宮収縮に関わるプロスタグランジン(注4)が上昇し、最終的に早産に至るという、早産の自然発生のマウスモデルを確立しました。このマウスはがん抑制遺伝子p53(注5)を子宮特異的に欠失していて、この遺伝体質がもとで約半数の妊娠マウスが早産をきたし、早産に伴って産仔の死亡も起こりました。
 今回の研究は、この早産の体質を持つマウスモデルを用いて、体質などの母体側の因子と感染・炎症という環境因子が相互的に作用して早産の発生を誘発していることを実験的に証明し、将来の早産予防戦略の構築につなげることを目的に行いました。

<研究の内容>
 本研究グループは、これまでの研究から早産体質マウスの子宮で、細胞内の機能調節因子であるmTORたんぱく質が活性化することによって細胞老化が促進され、さらにプロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ2(COX2)が増加し、最終的にプロスタグランジンF2α(PGF2α)が増えて早期の子宮収縮が起こり、早産が増えること報告しています(参考文献)。
 本研究では、このマウスに対してさらに環境因子として正常なマウスでは妊娠の障害にならない微量のリポポリサッカロイド(LPS:細菌成分)(注6)を投与し、軽度の炎症を与えると100%の確率で早産をきたすことを明らかにしました(図2)。これは、感染などによる軽度の炎症が存在した場合に、早産の体質を持つ個体は高頻度に早産となることを示しています。母体側の因子と環境因子が協調して作用することで早産が発生していることを実験的に示したのは世界で初めてのことです。
 さらに、この早産マウスに妊娠維持ホルモンとも呼ばれる黄体ホルモン(プロゲステロン)と免疫抑制剤としても知られるmTOR阻害剤のラパマイシンをあらかじめ投与しておくと、マウスの母体および胎仔には明らかな副作用がなく、LPSによって起こる早産と産仔の死亡を予防することができました(図3)。一方、プロゲステロンまたはラパマイシン単独の投与では早産と産仔の死亡を防ぐことはできませんでした。ラパマイシンによる治療は、p53欠損という遺伝的障害によって起こるmTORの活性化と細胞老化の経路を阻害して、子宮収縮を抑制します。一方、LPSによってプロゲステロン濃度が低下して子宮収縮が起こりますが、プロゲステロンを補充するという治療によって、LPSという環境因子によって起こる子宮収縮を抑制することができます。つまり、ラパマイシンおよびプロゲステロンを同時使用することで、母体側の因子および環境因子の経路を複合的に抑え早産が予防できることが分かりました。
 さらに、ヒトの早産の臨床サンプル(ヒト妊娠子宮内膜組織)でも、mTORの活性化や子宮内膜における細胞老化が認められました。妊娠末期のヒト子宮内膜の培養細胞を用いた実験では、LPS投与によって増える炎症性たんぱく質の分泌が、プロゲステロンおよびラパマイシンの前投与によって予防できることが示されました(図4)。マウスの早産で認められる経路がヒトの早産でも関わっていると考えられます。

<今後の展開>
 早産の原因が複雑であることがこれまでの早産研究を難しくしていましたが、本研究により早産が母体側の因子と環境因子の組み合わせによって高頻度に起こっていることが初めて証明されました(図5)。早産研究の進展により、早産に関わる遺伝子が全ゲノム遺伝子解析などの最新の実験手法で判明すれば、早産のハイリスク群が遺伝学的に抽出できるようになります。遺伝学的に抽出されたハイリスクの妊娠女性に対して、早産の体質に対する予防的治療と、それに加えて環境因子の改善につながる予防的治療を同時に行うことで早産を減らすことが可能となると考えられます。
 本研究により、環境要因による早産の予防法としてプロゲステロンの存在が明らかとなりました。プロゲステロンは妊娠中に卵巣や胎盤から大量に産生され、妊娠を維持しているホルモンです。妊娠初期には不妊治療などの際に流産予防のため使用されることがありますが、胎児への影響はほとんどないと考えられています。欧米では、プロゲステロンが早産の予防に使用される機会が増加する傾向にありますが、日本ではまだ一般的な予防的治療にはなっていません。今後その有用性と安全性が確認されれば、臨床的に早産のハイリスク群と考えられている早産既往症例や子宮頸管長(注7)短縮症例などに用いられることで、早産の環境要因の改善されるようになるかもしれません。
 一方、子宮の細胞老化が早産に関わる可能性が明らかとなりました。疫学的には高年齢の妊娠が早産のリスクを高めることが分かっています。加齢によりp53活性が低下することや加齢により細胞老化が増加することが報告されており、高年齢での妊娠による早産のリスク増加に子宮の細胞老化が関わっている可能性があります(図6)。この点に関しては、今後さらなる研究が必要と考えられます。妊娠中の薬物投与の胎児への影響を考慮すると、細胞老化をターゲットとした新薬の開発・臨床応用は非常に難しい面があります。既存の薬剤で胎児毒性がないと考えられる薬物でこの経路を押さえる治療法を見つけることができれば、将来における臨床応用の可能性が見いだせると考えられます。
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