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千葉大など、「EZH2」分子が免疫反応のブレーキ役であることを発見

免疫反応の新たなブレーキ役を発見


【ポイント】
 >アレルギー疾患発症は免疫系の過剰反応やバランスの乱れが原因です。
 >遺伝子発現を抑制するたんぱく質「EZH2」分子が免疫反応のブレーキ役として免疫系のバランスを調節する機構を解明しました。
 >EZH2分子を制御すれば、アレルギー疾患の治療への道が開けると期待されます。

 JST課題達成型基礎研究の一環として、千葉大学大学院医学研究院の中山俊憲教授らのグループは、遺伝子発現を抑制するたんぱく質「EZH2」分子が免疫反応のブレーキ役であることを発見しました。
 ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患は増加の一途をたどっており、国民の約3割がこれに罹患しているとの報告もあります。従来のアレルギー疾患に対する治療法は対症療法しかなく、根治療法の開発が望まれています。
 本研究グループは、遺伝子発現を抑制するたんぱく質として知られていたEZH2が、免疫系にも作用して過剰な免疫応答を抑える働きがあることを明らかにしました。さらに、EZH2結合遺伝子の遺伝子地図(注1)を作製することで、EZH2が免疫系の遺伝子に直接作用する機構の一端を解明しました。
 今後、EZH2やEZH2が結合しているたんぱく質を創薬ターゲットとすることで、将来的に慢性の難治性アレルギー疾患の治療開発に役立つことが期待されます。また、それとは逆に、免疫力の低下した患者に対する治療への応用も考えられます。
 本研究は、理化学研究所統合生命医科学研究センターの古関明彦グループディレクター、東京大学の鈴木穣教授の協力を得て行いました。
 本研究成果は、2013年11月14日(米国東部時間)発行の米国科学誌「Immunity」オンライン版に掲載されます

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)
  研究領域:「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」
        (研究総括:宮坂昌之大阪大学未来戦略機構特任教授)
  研究課題名:「気道炎症の慢性化機構の解明と病態制御治療戦略の基盤構築」
  研究代表者:中山俊憲(千葉大学大学院医学研究院教授)
  研究期間:平成23年10月~平成29年3月
 JSTはこの領域で、炎症が慢性化する機構を明らかにし、慢性炎症を早期に検出し、制御し、消退させ、修復する基盤技術の創出を目的とします。上記研究課題では、記憶Th細胞分画のサイトカイン産生制御機構に着目した解析を行うことで気道炎症の慢性化のメカニズムを解明し治療戦略の基盤構築を目指します。


<研究の背景と経緯>
 アレルギー疾患は、国民の3人に1人が罹患しているにもかかわらず、未だに効果的な予防法や根治療法は開発されていません。一旦発症すると慢性化することが多く治療が長期にわたり、患者の肉体的、精神的、経済的負担が極めて大きいことから、現代医学が解決すべき大きな課題の1つとなっています。
 アレルギー疾患の発症や病態には、免疫反応が過剰になることが原因となっています。免疫反応の司令塔であるヘルパーT(Th)細胞(注2)は、産生するサイトカイン(注3)の種類によって、免疫反応を活性化に関わるTh1、Th2、Th17細胞と、逆に免疫反応の収束や抑制に関わる制御性T(Treg)細胞に分けられます(図1)。これらのT細胞は、通常は互いにバランスを取りながら正常な免疫反応を担っていますが、バランスが崩れてTh2細胞優位になった場合に、アレルギー疾患が発症すると考えられています。Th2細胞は、インターロイキン(IL)-4や、IL-5、IL-13といったサイトカイン(Th2サイトカイン)を分泌して、抗体(IgE)産生や好酸球の遊走・組織浸潤などを誘発することから、アレルギー疾患の根幹に位置する細胞であると言えます。
 本研究グループは、このTh2細胞の分化や機能を制御することによりアレルギー反応の抑制が可能となり、将来的には難治性の慢性アレルギー疾患の根治療法の開発につながると考えて、研究を行ってきました。
 一方、たんぱく質「EZH2」は遺伝子に後天的(エピジェネティック)な作用を加えて遺伝子の発現を抑制するたんぱく質で、ポリコーム群たんぱく質(注4)と呼ばれます。ポリコーム群たんぱく質は元々ショウジョウバエで発見されましたが、その後の研究によりヒトES細胞などの幹細胞で重要な働きをしていること、この変異ががん細胞の発生の引き金になることなどが分かってきました。しかしEZH2の免疫系での働きについてはほとんど解明されていませんでした。


<研究の内容>
 本研究グループは、EZH2は生体内の遺伝子発現に対して抑制的に働くことから、免疫系においては過剰な免疫反応を抑える機能があるのではないかという仮説を立て、EZH2欠損マウスを用いた研究を行いました。
 EZH2欠損マウス由来のTh細胞は、予想通りにTh1サイトカインであるインターフェロンガンマ(IFNγ)とTh2サイトカインであるIL-4、IL-5、IL-13を過剰に産生することが分かりました(図3)。次に、この原因を詳しく調べるために、ChIP-seq法(注5)という最先端の手法で、EZH2が結合する場所の遺伝子地図を作製しました。当初の予想に反して、EZH2欠損マウスで過剰に産生されていたサイトカイン遺伝子にはEZH2が結合しにくく、EZH2は直接サイトカインの産生を抑制していないことが明らかになりました。一方で、これらのサイトカインを上流で制御している転写因子(注6)の遺伝子にはEZH2が結合しやすく、その発現を抑制しやすいということが分かりました(図4)。以前の研究により、IFNγの産生にはT-betという転写因子が、IL-4、IL-5、IL-13の産生にはGATA3という転写因子がそれぞれ重要であることが分かっています。今回の研究で新たに解明されたメカニズムは、EZH2はT-betやGATA3の発現を適切なレベルに制御することにより、その下流にあるサイトカインの過剰産生、すなわち過剰な免疫応答を抑制していることです(図5)。
 このメカニズムは、マウス個体を用いた実験でも確認されました。アレルギー性気道炎症モデルマウス(マウス喘息モデル)に野生型とEZH2欠損型のTh2細胞を移入し、アレルギーの発症と病態について検討しました。その結果、EZH2欠損型マウスのTh2細胞を移入すると、アレルギーの指標である気道肺胞洗浄液中への好酸球の浸潤や気道過敏性の反応が見られ、EZH2による過剰な免疫応答のブレーキ機能が破綻していると考えられます(図6)。


<今後の展開>
 遺伝子抑制性たんぱく質EZH2は、Th1、Th2サイトカインの両方を制御する働きがあることから、過剰な免疫応答を抑制する基本的な分子であると言えます。ただし生体内での異常から推測すると、Th2細胞抑制に対する寄与の方が大きいと考えられます。また、本研究結果から、慢性的にアレルゲンにさらされ、ヘルパーT細胞が持続的に刺激されると、EZH2による免疫系のブレーキ機構が破綻することが新たに分かりました。EZH2の異常がアレルギーの慢性化を引き起こす原因となるといった新たな炎症の慢性化の仮説も提唱できます。
 EZH2やEZH2が結合しているたんぱく質複合体(ヒストンH3K27メチル化酵素複合体)を創薬ターゲットとしてさらにその詳細なメカニズムを解明し、EZH2を適切に働かせることで過剰な免疫応答の抑制法に、逆にEZH2を抑制させることで免疫力の低下した患者に対する治療法につながることが期待されます。


 ※以下の資料は、添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・図1 ヘルパーT細胞(Th1/Th2/Th17/iTreg細胞)の分化と免疫応答・疾患
  ・図2 アレルギー炎症の発症メカニズムの概要
  ・図3 EZH2欠損マウス由来のTh細胞はIFNγとIL-4の過剰な産生が見られる
  ・図4 サイトカインを上流で制御する転写因子をコードする遺伝子座において、EZH2の強い結合が見られる
  ・図5 本研究で明らかとなった免疫系のブレーキ機構
  ・図6 EZH2欠損マウスではアレルギー性気道炎症モデルの病態が増悪する
  ・用語解説
  ・論文タイトル

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