2013/11/25 Category : 未選択 東大、キラル光磁石を初合成し光の波面を90度スイッチングする現象を発見 光の波面を90度スイッチングする光磁石! -キラル光磁石の初合成と新しい光磁気スイッチングの発見- <発表者> 大越慎一 (東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授) 井元健太 (東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程3年) 所裕子 (元東京大学大学院理学系研究科化学専攻 特任助教、現在筑波大学数理物質系 准教授) 吉清まりえ(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程1年) 高野慎二郎(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程1年) 生井飛鳥 (東京大学大学院理学系研究科化学専攻 助教) <発表のポイント> ・キラル光磁石を初合成し、物質から出てくる光の波面を水平と垂直の間で可逆的に光スイッチングするという新現象を発見しました。 ・世界で初めてのキラル光磁石の開発成功例です。また、物質から出てくる光の波面を水平と垂直の間で可逆的に光スイッチングする現象も初めて報告します。 ・最先端の光科学と物質科学を融合させて達成された本成果は、光記録デバイスや光センサー、光コンピューター、光通信技術などへの応用が考えられます。 <発表概要> 光で物理的性質が変化する材料、特に光により直接的に磁性を変化(光スイッチング)できる磁性材料である「光磁石」は、磁場や熱を必要とせず非接触で磁気的な性質を変換できるため、開発が望まれています。 東京大学大学院理学系研究科化学専攻大越慎一教授の研究グループは、光で応答する磁性材料にキラル(不斉)構造(注1)を付与することで、物質から出てくる光の波面(偏光面)(注2)を水平と垂直の間で可逆的に光スイッチングする新現象を発見しました。 研究グループが今回新しく開発した物質は鉄(Fe)イオンとニオブ(Nb)イオンをシアノ基(-CN-)で3次元的に架橋したキラル構造をもつ磁石で、こ の物質に青色光(波長473ナノメートル)と赤色光(波長785ナノメートル)を交互に照射することで、可逆的に磁石の磁力を変えることができる新しいタ イプの磁石です(以下、この新しい磁石をキラル光磁石と呼びます)。このキラル光磁石を用いて、非線形光学効果(注3)の一つである第2高調波(物質にあ る波長の光を入射すると、半分の波長の光が出射してくる現象)の研究を行いました。その結果、光照射前の非磁石状態では、入射面に対して水平な波面の光入 射に対して、垂直な波面の光の出射が観測されましたが、その状態に青色光を照射して磁石状態(光磁石状態I)にすると、水平な波面の光の出射が観測されま した。また、引き続き、赤色光を照射して磁力が弱い磁石状態(光磁石状態II)にすると、垂直な波面の第2高調波に戻りました。このように、青色と赤色の 光で磁石の状態を変えることで、第2高調波として出射される光の波面を可逆的に90度スイッチングすることに成功しました(図1)。これまでにキラル光磁 石は報告例がなく、本物質が世界で初めての開発成功例となります。また、このような新しい物質を作り出したことで、キラリティと磁気的性質とが相関し、物 質から出てくる光の波面が90度光スイッチングする現象の創出に成功しました。このスイッチング現象は、最先端の光科学と物質科学を融合させて初めて達成 できたものであり、従来のファラデー効果とは全く異なった現象で、光記録デバイスや光センサー、光通信技術などへの応用が期待されます(大越慎一ら,特許 出願2013-209102)。 本研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「プロセスインテ グレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」研究領域(研究総括:入江正浩立教大学理学部教授)における研究課題「磁気化学を基盤とした新機能ナノ構造 物質のボトムアップ創成」(研究代表者:大越慎一)によって得られ、英国時間2013年11月24日(日)午後6時に英国科学雑誌Nature Photonics(ネイチャー・フォトニクス)のオンライン速報版で公開されます。 ※図1は、添付の関連資料を参照 <発表内容> オプトエレクトロニクス用材料として、光で物理的性質が変化する材料(光相転移材料・光変換材料)の研究が現在活発に進められています。光により直接的に 磁性をスイッチングできる磁性材料を開発できれば、磁場や熱を必要とせず非接触で磁気的な性質を変換でき、また高密度記録化も可能であるため、光メモリー や光コンピューターなどの光磁気メモリーや光アイソレター素子などへの応用が期待されています。 今回、大越教授らは、オクタシアノニオブ酸鉄 (II)ブロモピリジン(Fe2[Nb(CN)8]・(4-BrC5H4N)8・2H2O)(◇)というキラル構造を有する3次元構造物質を開発しました (図2)。この物質は、光照射前は非磁石状態(注4)ですが、波長473ナノメートル(nm)の青色光を照射すると、磁気相転移温度(TC(◇))(注 5)が15ケルビン(K、-258℃)、保磁力(Hc)(注6)が3000エルステッド(Oe)の磁石状態(注7)(光磁石状態I)に光相転移します。一 方、波長785nmの赤色光を照射するとTC=12K(-261℃)、Hc=2100 Oeの磁石状態(光磁石状態II)に光相転移します。また、光磁石 状態Iと光磁石状態IIの間の相転移は青色光と赤色光照射により可逆的に繰り返すことが分かりました(図3)。この光スイッチング現象は、鉄(II)イオ ンのスピン状態が、低スピン状態(S=0)と高スピン状態(S=2)の間で光可逆的に相転移する光スピンクロスオーバー現象(注8)に由来します。このよ うなキラル構造をもつ光磁石(以下、キラル光磁石と呼びます)は、世界で初めてです。 ◇「(Fe2[Nb(CN)8]・(4-BrC5H4N)8・2H2O)」・「TC」の正式表記は、添付の関連資料を参照 大越教授らは、このキラル光磁石を用いて非線形光学効果(注3)の一種である第2高調波(SH)(入射光に対して波長が半分の光が出射する現象)の研究を 行いました。まず、非磁石状態に、入射面に対して水平な波面(偏光面)(注2)の光を入射したところ、この物質は、垂直な波面のSH光を出射しましたが (図4a)、青色光を照射して光磁石状態Iに光相転移させたものでは、波面が90度回転した水平な波面のSH光を出射することが分かりました(図4b)。 また、引き続き赤色光を照射した場合は、元の垂直な波面のSH光の出射が観測されました(図4c)。本キラル光磁石では、青色光と赤色光で磁石の状態を変 えることで、SH光の波面を可逆的に90度スイッチングすることに成功しました。このような第2高調波の光スイッチングはこれまでに報告例がなく、本物質 が世界で初めての報告例です。 観測された90度光スイッチングのメカニズムは、以下のように説明されます。本物質の第2高調波は、キラル結晶構 造に由来する成分(結晶項)と磁性スピンに由来する成分(磁性項)によります。前者は垂直な波面を、後者は水平な波面の第2高調波を作り出します。非磁石 状態および光磁石状態IIの場合は、結晶項が主となるためSH光の波面は垂直となり、光磁石状態Iの場合は磁性項が主となるため波面は水平となります。通 常の磁石のファラデー効果やカー効果などの磁気光学効果では、波面が回転する場合、楕円率変化も起こってしまうため、直線偏光は円偏光に変換されてしまい ますが、本現象の場合は、楕円率変化が生じることなく、直線偏光がそのまま90度回転している点に特徴があります。このような現象は、最先端の光科学と物 質科学を融合させて初めて達成できたものであり、光記録デバイスや光センサー、光コンピューター、光通信技術などへの応用が考えられます。 本研究は、Nature Photonicsの編集者からも注目されており、大越教授のインタビュー記事が近く同誌に掲載される予定です。 <発表雑誌> 雑誌名:Nature Photonics(ネイチャー・フォトニクス) 論文タイトル:90-degree optical switching of output second-harmonic light in chiral photomagnet 論文タイトル訳:キラル光磁石における第2高調波の90度光スイッチング 著者:Shin-ichi Ohkoshi(*),Shinjiro Takano,Kenta Imoto,Marie Yoshikiyo,Asuka Namai,Hiroko Tokoro DOI番号:10.1038/NPHOTON.2013.310 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword