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熊本大など、ヒトiPS細胞から3次元腎臓組織作成に成功

世界で初めてヒトiPS細胞から3次元腎臓組織作成に成功
~腎臓再生医療への扉を開く~
【配付資料】



[ポイント]
 ◆腎臓の大部分は胎児の下半身の元となる特殊な細胞(体軸幹細胞)に由来することを発見した。
 ◆胎児の体軸幹細胞から腎臓の元となる細胞(腎臓前駆細胞)を作成するのに必要なたんぱく質(成長因子)の組み合わせを同定した。
 ◆マウスES細胞とヒトiPS細胞から試験管内で腎臓前駆細胞を作成する方法を確立し、世界で初めて3次元の腎臓組織を作成することに成功した。


[要旨]
 熊本大学発生医学研究所・腎臓発生分野の太口敦博(医学教育部博士課程大学院生)、西中村隆一教授らの研究グループは、マウスES細胞(※1)およびヒトiPS細胞(※2)から世界で初めて糸球体(※3)と尿細管(※4)を伴った3次元の腎臓組織を作成することに成功しました。
 腎臓は血液を糸球体でろ過し、さらにそこから尿細管で必要なものを再吸収することで尿を産生し、体内の体液バランスの維持や血圧調整に重要な役割を果たしています。しかしながら、一度機能を失うと再生せず、人工透析がなければ生命が維持できない状況に陥ってしまいます。腎不全の原因の第一位が糖尿病であることもあって、人工透析を受ける患者数は増加の一途で、国内で31万人に上っており、医療費も年間1兆円と医療経済的問題にもなっています。腎臓移植は唯一の根治療法ですが、慢性的にドナーが不足しており、再生医療への期待が高まっています。しかし、網膜や心臓、膵臓といった多くの臓器で臨床応用も視野に入れた再生医療研究が進む一方で、腎臓を作ることは極めて困難でした。
 西中村隆一教授らの研究グループは、マウスを用いた研究により、糸球体と尿細管は共に、胎児期の腎臓前駆細胞(※5)(腎臓の元になる細胞)からできていることを報告していました。しかしこの腎臓前駆細胞がどのような過程を経て胎内で形成されるのかはほとんど明らかにされていませんでした。今回、太口敦博らは、マウスの腎臓前駆細胞が下半身の元となる特殊な細胞「体軸幹細胞(※6)」を経て形成されることを見出し、実際にマウス胎児から採取したこの細胞から、腎臓前駆細胞を作るのに必要な5種類の成長因子(※7)を特定することに成功しました。さらにこの5因子を適切な組み合わせと濃度で5段階に分けて投与することで、マウスES細胞およびヒトiPS細胞の両方から腎臓前駆細胞を試験管内で作成することができました。そしてこれらの腎臓前駆細胞をさらに培養することで、世界で初めて、糸球体と尿細管の両方を伴った3次元の腎臓組織が試験管内で再構築されました。
 本研究は、腎臓の元になる細胞が母胎内で形成される仕組みを明らかにするとともに、世界で初めて試験管内での3次元腎臓組織の構築を実現したものです。実際にこの腎臓組織が尿を産生するためにはさらなる細胞の成熟化と尿を排出する仕組みが必要ですが、本研究はこれまで固く閉ざされていた腎臓の再生医療の扉を開く大きな一歩と言えます。またこの方法を基に、腎臓の病気を試験管内で再現できる可能性があり、病因の解明と創薬開発につながることが期待されます。本研究成果は科学雑誌「Cell Stem Cell」オンライン版に12月12日12:00正午(アメリカ東部時間)に掲載されます。

 ※本研究は、科学技術振興機構CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作成・制御等の医療基盤技術」、科学研究費補助金、熊本大学グローバルCOE「細胞系譜制御研究の国際的人材育成ユニット」の支援を受けました。


[研究の背景]
 腎不全による人工透析患者数は増加の一途をたどり、医療費増大の一因ともなっていることから、社会的問題にもなっています。しかし、腎移植の機会は限られており、山中教授らによるiPS細胞の発明を契機に再生医療への期待が高まっています。
 各々の臓器はそれぞれ複数の種類の細胞が集まってできていますが、そのほとんどの細胞の元になる「前駆細胞」という多能性を持つ細胞がまず胎児期に形成され、成長するにつれ増殖、分化(成熟)することにより臓器は形成されます。従って、臓器の再生にあたってはまずこの臓器ごとの「前駆細胞」の作成がまず目標とされ、多くの臓器(網膜、心臓、膵臓、軟骨)でここまではクリアされてきました。そして実際の臨床応用に向けては、さらに大人の細胞と同じような「機能を持つ細胞」にいかに成熟させるかというところに主眼が移りつつあります。
 一方で、腎臓領域においてはこの臓器の前駆細胞、「腎臓前駆細胞」を作ることすら極めて困難でした。臓器の前駆細胞作成にあたっては、基本的に胎内でその臓器前駆細胞が作られる仕組み(発生過程)を試験管内で模倣するという戦略が一般的ですが、腎臓においてはこの前駆細胞の発生過程そのものが解明されていなかったからです。


[研究の内容]
 そこで我々は、腎臓前駆細胞の発生過程を解析することから始めました。発生過程を理解し、模倣するには具体的には2つの要素が大事になります。それは、(1)「どのような細胞」に、(2)「どの成長因子」が働けば目的の細胞(腎臓前駆細胞)に向かって分化(成熟)するかということです。
 この2つの要素を明らかにするために、まず将来腎臓前駆細胞になる予定の細胞とされている「中間中胚葉(※8)」が緑に光る遺伝子改変マウス(Osr1-GFPノックインマウス(※9))を作成しました。この中間中胚葉細胞に実際に様々な成長因子を加えて腎臓前駆細胞の作成を試みましたがうまくいかず、代わりに、初期段階でOsr1を発現しない細胞群の中に腎臓前駆細胞の元になる細胞が存在することが示唆されました。これまで胎児はごく初期の段階で全身のおおよその形が形成され、それがそのまま大きく成長すると考えられてきました。しかし近年、胴体の下半身は頭部・胸部ができ上がった後に、下半身専用の細胞「体軸幹細胞」から作られるという説が提唱されています(図1参照)。そこで、実際にこの体軸幹細胞を含む領域に発現する遺伝子改変マウス(T-GFPノックインマウス)を用いて解析した結果、腎臓前駆細胞は下半身専用の細胞、「体軸幹細胞」から発生することを初めて見出しました(図2参照)。
 こうして腎臓前駆細胞の元になる細胞が同定されたため、実際にこの細胞をマウスの胎児から回収し、試験管内で「どのような成長因子」を加えれば腎臓前駆細胞になるかを検討しました。その結果、3つのステップに分けて、計5種類の成長因子(アクチビン、Bmp、Wnt、レチノイン酸、Fgf)をそれぞれ組み合わせと濃度を適正化して加えると効率的に腎臓前駆細胞を試験管内で作成できることが分かりました(図2参照)。次にマウスES細胞を用いて、どのような成長因子を加えれば腎臓前駆細胞の元となる体軸幹細胞が作成できるかを検討し、2つのステップで誘導できることを見出しました。実際にこの細胞に、先の成長因子を加えると、計5ステップを経て腎臓前駆細胞ができることが分かりました(図3参照)。
 ES細胞から前駆細胞ができたため、次に、腎臓が機能するために必要な糸球体と尿細管という3次元構造の再構築を試みました。その結果、これまでにマウス胎児の腎臓前駆細胞から3次元構造を作成する際に用いられていた方法(Wntを分泌する細胞、もしくは胎児の脊髄と一緒に培養する)で糸球体と尿細管の両方が形成されました。つまり、マウス胎児に存在する腎臓前駆細胞と同等の能力を持つ細胞がマウスES細胞から作成できたことが確認されました。さらに、ヒトiPS細胞でも同様の方法で、腎臓前駆細胞、さらには3次元の腎臓組織が作成できました。(図3、4参照)
 これまでにも腎臓前駆細胞を試験管内で作成したという報告はありましたが、そのいずれもごく少数の管様構造の形成能しか示されておらず、明確な糸球体と尿細管を含む3次元の腎臓組織を作ったという報告は世界で初めてであり、腎臓の再生医療の扉を開ける成果と言えます。


[今後の展開]
 現段階では再生組織を移植することで血管を含む3次元構造までは形成されていますが、実際にそこから尿を産生する程度に機能的に成熟させるには至っていません。今後はこの成熟化をいかにして試験管内もしくは移植組織で実現するか、また尿が産生されたとしてその尿を排出するための組織(尿管芽)をどのようにして作成するかという課題が残されます。また、これらをすべて実現できたとしても、そこから大人の体を維持するのに必要な大きさの腎臓にまでどのように大きく成長させるのかを含めて考えると依然臨床応用には相応の時間が必要と考えられます。とはいえ、今回の成果をきっかけに、これまで困難と考えられてきた腎臓の再生医療研究、さらには腎臓病の原因解明と新薬の開発が一気に加速するものと期待されます。
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