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理化学研究所、免疫履歴がその場で分かる「ウイルス・マイクロアレイ診断システム」を開発

免疫履歴がその場で分かるマイクロアレイ診断システムを開発
-「どんな感染症に免疫ができているか」を全自動でわずか15分で診断-


<ポイント>
 ・多種類の感染症ウイルスに対する抗体を同時に診断し、ワクチン接種の必要性を判断
 ・数日かかっていた血液を検査センターに送って免疫履歴を調べる必要がなくなる
 ・感染症流行時・海外渡航前・医療従事者などのワクチン接種の必要性判断に有効

<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、ヒトの血液中にある多種類の感染症ウイルスに対する抗体[1]の種類や量(抗体価)を、同時にかつ迅速に全自動で測定できる「ウイルス・マイクロアレイ診断システム」を開発しました。医療の現場で簡単に抗体価を調べることが可能で個人個人の獲得した免疫履歴が分かるため、従来数日かかっていたい検査センターでの検査が不要になり、ワクチン接種の必要性などをその場で容易に判断できます。これは、理研創発物性科学研究センター(十倉好紀センター長)創発生体工学材料研究チームの伊藤嘉浩チームリーダー(伊藤ナノ医工学研究室 主任研究員)らと、理研ベンチャーのコンソナルバイオテクノロジーズ(田代英夫代表取締役)による共同研究の成果です。

 免疫履歴を調べるには、通常、採取した血液を検査センターに送り、はしかや風疹などの免疫項目ごとに獲得履歴の確認依頼をしますが、結果を得るまでに5日ほどを要していました。今回開発した診断システムでは、医療現場で採取した少量の血液(分離血清)を使い、複数の免疫項目を同時にかつ15分程度という短時間で測定可能になります。実際に測定したところ、検査センターなどで行われている酵素免疫測定法(EIA法)[2]と、ほぼ同精度の結果を得ることができました。また、同測定法に比べて試薬や装置の生産コストを5分の1程度に抑えることができます。

 老人福祉施設や介護施設、教育現場などでの集団感染を防御する観点からも、抗体価の確認とワクチン接種が重視されています。今回、開発したシステムは、こうしたニーズに低コストで正確に素早く対応できる手法といえます。また、妊娠前の女性に対する手軽で優しい検査や、インフルエンザなどの予防接種ワクチンによる免疫獲得の確認、海外渡航の際のワクチン予防接種の必要性の判断などにも役立つと期待できます。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『PLOS ONE』オンライン版(12月18日付け:日本時間12月19日)に掲載されます。


<背景>
 感染症との闘いの歴史は、医学の歴史でもあるといわれます。医学の進歩や公衆衛生に対する意識の高まりもあって、近い将来、人類は感染症を撲滅できるだろうとの楽観的観測もありました。しかし、実際には「新興感染症」や、結核やペスト、ジフテリアのように一度は制圧したと思われた感染症が復活する「再興感染症」への対応が必要となり、新たな闘いを強いられています。記憶に新しいところでは、2007~2008年のはしかの流行があります。また、2013年には風疹が流行し、すでに1万人以上の発症例が報告されています(厚生労働省2013年調べ)。一方で、感染症予防のための多様なワクチンが開発されています。こうした中、個人個人の免疫獲得の履歴を知ることが、感染症対策の1つとして重要視されています。

 最近のバイオテクノロジーの進展は目覚ましく、分析装置・機器もナノテクノロジーや微細加工技術を駆使した、より高度で使いやすいものになってきています。とりわけ、マイクロアレイ技術[3]を使ったDNAチップは、遺伝子診断などにも応用され急速に普及しています。しかし、DNAより大きなタンパク質やウイルスをマイクロアレイの基板に固定化することは技術的に難しく、実用化には至っていませんでした。

 研究チームは2003年、生体由来の物質など有機化合物であれば何でも基板に固定化できる「何でも固定化法」を開発、その後、改良を進めてきました。これは、光に反応する物質(ポリマー)をつくり有機化合物と混ぜ、それを基板に載せて光を当てると、ラジカル架橋反応という反応を起こし、有機化合物が基板に固定されるという方法です。

 今回、この技法を用いてタンパク質やさらに大きなウイルスでもマイクロアレイの基板に固定化し、かつそれらに対する免疫があるかどうかを自動的に測定できるシステムの開発を目指しました。


<研究手法と成果>
 研究チームは、「何でも固定化法」のポリマーのラジカル架橋反応をさらに高めるために、フッ素化アジドフェニル[4]を共重合させた新たなポリマーを開発しました。ウイルスをマイクロアレイの基板に固定化するには、このポリマーを遠心力で薄く延ばして薄膜化します。そこにウイルスを含む試料液をスポット状に吐出します。その後、紫外線を照射するとウイルスを基板に固定化できます(図1)。この方法を用いて、はしか、風疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、水痘(水ぼうそう)の4種類の不活化ウイルスと、エプスタイン・バーウイルスの成分タンパク質を固定化したマイクロアレイチップの作製に成功しました(図2)。

 次に、ウイルスを固定化したマイクロアレイチップを使って完全自動で免疫獲得の履歴を測定できる「ウイルス・マイクロアレイ診断システム」を開発しました(図3)。血液(分離血清)をチップに滴下しスイッチを押すだけで、反応、洗浄、検出、分析という一連の行程を自動で行うことができます。血液中にウイルスに対する抗体があると結合して発光し、その発光像をCCDカメラで撮影することで、免疫があるかどうか分かります(図4)。また、発光度合を数値化し出力することも可能です。このシステムにより、数滴の血液を用い、約15分で獲得免疫の測定が可能となりました。

 得られた結果は、検査センターなどで用いられている酵素免疫測定法(EIA法)で測定した場合とほぼ同精度でした。これにより、本システムで十分な精度で測定できることが明らかになりました。


<今後の期待>
 「何でも固定化法」は、さまざまな生体分子を一気にマイクロアレイの基板に固定する方法です。これまでに研究チームは、何でも固定化法を用いて、多種類のアレルゲンをマイクロアレイの基板に固定したチップでアレルギーを診断できるシステムや、多種類の自己免疫抗原をマイクロアレイの基板に固定したチップで自己免疫疾患を診断できるシステムを開発してきました。今回は5種類の感染症ウイルスのマイクロアレイチップを作製しましたが、他の感染症ウイルスのマイクロアレイチップを作製することも可能です。また、開発したウイルス・マイクロアレイ診断システムは、完全な自動診断システムを実現しました。今後、医療現場で多項目診断がより効率的に行えるようになると期待できます。


<原論文情報>
 ・Ponnurengam Malliappan Sivakumar,Nozomi Moritsugu,Sei Obuse,Takashi Isoshima,Hideo Tashiro,and Yoshihiro Ito,"Novel microarrays for simultaneous serodiagnosis of multiple antiviral antibodies",PLOS ONE,2013,2013,
 doi:10.1371/journal.pone.0081726


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 創発物性科学研究センター http://www.riken.jp/research/labs/cems/
 超分子機能化学部門 http://www.riken.jp/research/labs/cems/supramol_chem/
 創発生体工学材料研究チーム http://www.riken.jp/research/labs/cems/supramol_chem/emerg_bioeng_mater/
 チームリーダー 伊藤 嘉浩(いとう よしひろ)
PR

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