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理化学研究所、全天X線監視装置「MAXI」で新星爆発瞬間の観測に成功

新星爆発の瞬間の観測に成功
-ISSに搭載した全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」が「火の玉」をとらえた-


<ポイント>
 ・小マゼラン星雲に極めて明るいX線を放つ突発天体を発見
 ・X線は新星爆発直後の約1時間、重量級の白色矮星を包み込んだ「火の玉」から放射
 ・「火の玉」の観測は史上初、「火の玉」からの閃光中にネオンの放射を発見


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA、奥村直樹理事長)と共同で開発し、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載した全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」を用いて、新星爆発の瞬間に重量級の白色矮星[1]を包みこんだ「火の玉」を初めて観測することに成功しました。これは、理研グローバル研究クラスタ(玉尾皓平クラスタ長)理研のMAXIチーム(牧島一夫チームリーダー)の森井幹雄協力研究員らを中心とした全国のMAXI研究グループ[2]と、NASAのSwift(スウィフト)衛星チームの協力研究者[3]による共同研究グループの成果です。

 重い白色矮星の表面上で新星爆発が起こると、点火から数時間の間に星全体が「火の玉」に包まれ、紫外線や軟X線[4]の閃光が放出されるという理論予想がありました。しかし、短時間の突発的なX線閃光を検出する装置がなかったため、閃光は観測されたことがありませんでした。2009年8月に運用を開始したMAXIにより、軟X線の波長域で全天の突発現象を監視することが初めて可能になりました。

 MAXI研究グループは、地球から22万光年遠方に位置する小マゼラン星雲の東端に、通常の新星爆発時に比べ約100倍[5]という極めて明るい軟X線の閃光を放射する突発天体を発見し、「MAXI J0158-744」と名付けました。MAXIとSwift衛星による追跡観測によって得られたデータを精査した結果、MAXIが観測した軟X線閃光は、非常に重い白色矮星の表面上で起こった新星爆発の点火後約1時間の間に、星全体を包み込んだ「火の玉」からの放射であることが分かりました。新星爆発初期の「火の玉」からの軟X線閃光を観測したのは史上初となります。さらに、MAXIに搭載している軟X線分光観測装置(SSC)は、この「火の玉」からの軟X線閃光の中に明るいネオン輝線を検出しました。これは、爆発するガス中に大量のネオン元素が存在することを意味し、この白色矮星が酸素とネオンで構成された重い白色矮星であることを示しています。

 今回、新星爆発初期の軟X線閃光が通常の新星爆発の約100倍の明るさに達したこと、さらに明るいネオン輝線を含んでいることは、既存の新星爆発理論では説明できないため、理論の書き変えが必要になります。また、MAXI J0158-744の質量は、白色矮星の最大質量であるチャンドラセカール限界[6]ぎりぎりの値、もしくは、その値を超えている可能性があります。これは、天文学に広く影響を与える可能性があります。さらに、このような非常に重い白色矮星が珍しいタイプの連星系[7]の中に見つかったことで、連星進化モデルの再考も必要になると考えられます。

 本研究成果は、米国の学術雑誌『Astrophysical Journal』(12月1日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版に近日掲載されます。


<背景>
 太陽のような恒星は水素を燃料とした核融合反応によって輝いています。恒星は、内部の燃料を使い果たし活動末期になると、白色矮星と呼ばれる小さな暗い天体に変化します。別の恒星とペアを組んだ連星系の中にある白色矮星の場合、恒星から水素ガスが供給され表面に堆積します。それが白色矮星の強い表面重力により高温・高圧になると、爆発的な核融合反応が起こります。これを新星爆発と呼びます。この爆発により白色矮星からの放出物は、数日かけて太陽半径(約70万km)の約100倍に膨張します。膨張後、放出物の外側の低温の領域から目に見える可視光線が放射され、このとき1万倍近くも急激に明るくなり可視光の新天体として発見されます。その後、数十~数百日かけて緩やかに減光し、爆発前の状態に戻ります。紀元前から人類は、目視などにより新星爆発を観測してきました。現在の新たな新星爆発の発見では日本のアマチュア天文家が大活躍しています。ところで、似たような現象に「超新星爆発」がありますが、新星爆発が白色矮星表面だけで起こる現象であるのに対し、超新星爆発は、白色矮星や恒星全体が爆発で吹き飛んでしまう現象のことであり、2つは異なる爆発現象です。

 通常の質量(重さ)を持った白色矮星上で発生する新星爆発の場合、爆発の放出物が膨張する前の短時間(点火から数時間の間)に紫外線(波長10~400nm)の閃光が放出されることが理論的に予測されています。これを新星爆発の「火の玉フェイズ」と呼びますが、新星爆発がいつ・どこで発生するか予測することが不可能であるため、この現象が観測されたことはありません。一方、質量が大きい白色矮星の場合には、表面重力が強いため少量の堆積ガスで点火し、爆発の放出物が少なく白色矮星表面近くの高温の領域がむき出しになり、紫外線よりも波長の短い軟X線(波長0.5~10nm)の閃光が放出されると予測されています。しかしこの場合も、質量の大きな白色矮星上で発生する新星爆発の頻度が少ないこと、また、軟X線の波長域に高い感度を持つ全天監視装置がなかったため、火の玉フェイズが観測されたことはありませんでした。


<研究手法と成果>
 MAXI研究グループは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導して国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに搭載した全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」を使って、日々、全天のX線天体を観測しています(図1)。

 2011年11月11日、MAXI研究グループは地球から22万光年遠方に位置する小マゼラン星雲の東端に極めて明るい軟X線を放射する突発天体を発見し、この天体を「MAXI J0158-744」と名付けました(図2)。明るい軟X線放射(軟X線閃光)の継続時間は約1時間と短く(図3)、類似の現象としては、超新星爆発の瞬間に放射される軟X線閃光だけが知られていました。突発天体の早期の追跡観測を得意とするNASAのSwift衛星チームに連絡し追跡観測したところ、X線を発する新天体の存在が確認できました。また、Swift衛星の紫外・可視光望遠鏡(UVOT)の観測により、このX線天体の位置に既知の恒星が検出され、突発天体の出現前よりも明るくなっていることが確認できました。しかし、可視光での増光はわずか2倍程度であり、超新星爆発で起こる約1万倍以上の増光に比べて桁違いに小さいため、超新星爆発の可能性は否定されました。したがって、今回観測した突発天体からの軟X線閃光は全く未知の天体現象であることが判明しました。

 その後、共同研究グループは、MAXIによる3回のスキャン観測データを用いて、軟X線閃光の明るさ、温度、増光の速度を計算し、この天体現象が新星爆発の「火の玉フェイズ」であるという結論を得ました(図3)。新星爆発初期の「火の玉フェイズ」からの軟X線閃光を観測したのは史上初となります。しかし、MAXIが観測した軟X線閃光の明るさが通常の新星爆発の約100倍の明るさに達したこと、また、半日から1カ月の間に観測された「超軟X線放射フェイズ[8]」の開始時期が極めて早く、継続時間も通常の新星爆発の場合(数百~数千日)に比べて極めて短いことは、この新星爆発を引き起こした白色矮星の質量が非常に大きいことを示唆しています。それどころか、これらの観測値は既存の理論予測を超えており、MAXI J0158-744の質量が白色矮星の質量の理論的最大値(チャンドラセカール限界:太陽質量の1.4倍)ぎりぎりの値を持っているか、あるいはその値を超えていることを示唆しています。

 さらに、MAXIの軟X線分光観測装置(SSC)は、火の玉フェイズの軟X線閃光から高温で電離したネオンの輝線を検出しました(図4)。この観測結果も、MAXI J0158-744が酸素とネオンで構成された重量級の白色矮星であることを支持します。

 MAXIによる発見後のSwift衛星のUVOT望遠鏡や地上望遠鏡(SMARTS、SAAO、ESO)による追跡観測により、MAXI J0158-744は大質量恒星(Be星)と白色矮星との連星系であることが分かりました(図5)。このような組み合わせの連星系は珍しく、また新星爆発が観測されたことも初めてのことです。

 最後にまとめとして、通常の新星爆発とMAXI J0158-744の爆発とを比較した模式図を図6に示します。なお、天体の発見から論文発表までに時間を要したのは、先例のない軟X線閃光の強さと電離したネオン輝線の理解に時間を要したためです。


<今後の期待>
 今回、MAXIで観測した新星爆発初期の軟X線閃光が、通常の新星爆発の約100倍の明るさに達したことや、ネオンの輝線放射を含んでいたことは、共同研究グループにとって想定外のことでした。これは、新星爆発の理論に修正を迫ることになります。また、この白色矮星の質量が白色矮星の最大質量であるチャンドラセカール限界ぎりぎりの値を持っているか、あるいはその値を超えている可能性があることは、天文学に広く影響を与えます。さらに、このような非常に大質量の白色矮星が珍しいタイプの連星系の中に見つかったことも意外でした。連星進化モデルの再考が必要になるでしょう。このように、今回の結果は、天文学に大きなインパクトを与えることが必至と考えられます。

 MAXI研究グループは今後も、さまざまな種類のX線突発天体の観測を続けます。その中には、新種の天体の発見や天文学の常識を塗り替えるような発見が期待されます。


<原論文情報>
 ・M.Morii,H.Tomida,M.Kimura,F.Suwa,H.Negoro,M.Serino,J.A.Kennea,K.L.Page,P.A.Curran,F.M.Walter,N.P.M.Kuin,T.Pritchard,S.Nakahira,K.Hiroi,R.Usui,N.Kawai,J.P.Osborne,T.Mihara,M.Sugizaki,N.Gehrels,M.Kohama,T.Kotani,M.Matsuoka,M.Nakajima,P.W.A.Roming,T.Sakamoto,K.Sugimori,Y.Tsuboi,H.Tsunemi,Y.Ueda,S.Ueno and A.Yoshida.
 "Extraordinary Luminous Soft X-ray Transient MAXI J0158-744 as an Ignition of a Nova on a Very Massive O-Ne White Dwarf",Astrophysical Journal,2013,


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 グローバル研究クラスタ(http://www.riken.jp/research/labs/grc/)宇宙観測実験連携研究グループ(http://www.riken.jp/research/labs/grc/space_obs_exp/)MAXIチーム(http://www.riken.jp/research/labs/grc/space_obs_exp/maxi/
 協力研究員 森井 幹雄(もりい みきお)
 専任研究員 三原 建弘(みはら たてひろ)

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