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理化学研究所など、腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導を解明

腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ
-炎症性腸疾患の病態解明や新たな治療法の開発に期待-


<ポイント>
 ・食物繊維が多い食事を摂ると酪酸が増加
 ・酪酸が制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3遺伝子の発現を高める
 ・酪酸により分化誘導された制御性T細胞が大腸炎を抑制

<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)、東京大学(濱田純一総長)、慶應義塾大学先端生命科学研究所(冨田勝所長)は、腸内細菌が作る酪酸[1]が体内に取り込まれて免疫系に作用し、制御性T細胞[2]という炎症やアレルギーなどを抑える免疫細胞を増やす働きがあることを明らかにしました。これは、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)粘膜システム研究グループの大野博司グループディレクター、東京大学医科学研究所(清野宏所長)の長谷耕二特任教授(JSTさきがけ研究者)、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授を中心とする共同研究グループ[3]による成果です。

 ヒトの腸管には500~1,000種類、100兆個以上の腸内細菌が生息し、この腸内細菌が消化液では分解できない食物繊維などを微生物発酵(腸内発酵)により代謝し、有用な代謝産物に作り替える働きをしています。こうした代謝産物は腸管粘膜でエネルギー源として使われるほか、腸の収縮運動を高める働きをしています。これまである種の腸内細菌に炎症やアレルギーを抑える効果があることが知られていましたが、そのメカニズムは分かっていませんでした。

 今回、共同研究グループはマウスに食物繊維が多い食事(高繊維食)を与えると、制御性T細胞への分化誘導が起こることを発見しました。高繊維食を与えたマウスでは低繊維食を与えたマウスに比べて腸内細菌の活動が高まっており、代謝産物のひとつである酪酸の生産量が多くなっていました。さらに、この酪酸が制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3遺伝子[4]の発現を高めていることも明らかになりました。

 つまり、食物繊維の多い食事を摂ることで腸内細菌の活動が高まり、その結果多量の酪酸が作られ、この酪酸が炎症抑制作用のある制御性T細胞を増やしていると考えられます。実際に大腸炎を起こす処置をしたマウスに酪酸を与えたところ、制御性T細胞が増え、大腸炎が抑制されました。

 クローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患[5]の患者の腸内でも、酪酸を作る腸内細菌が少ないことが知られています。今回の発見は、腸内細菌が作る酪酸には炎症性腸疾患の発症を防ぐ役割があることを示しており、病態の解明や新たな治療法の開発に役立つと期待できます。本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけとして行われました。本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature』に掲載されるに先立ち、オンライン版(11月13日付:日本時間11月14日)に掲載されます。


<背景>
 ヒトの腸管にはおよそ500~1,000種類、100兆個以上の腸内細菌が生息しています。特に大腸は、腸内細菌の増殖に非常に適した環境であり、ビフィズス菌などの腸内細菌が糞便1gあたり約1,000億個も生息しています。腸内細菌群は互いに影響し合いながら一定の細菌数バランスを保つことで、腸内細菌叢(腸内フローラ)[6]を形成し、食物繊維などを栄養源として発酵分解することで、低分子の代謝産物を産生しています。腸内細菌の代謝産物は、腸上皮細胞のエネルギー源となることや、腸のバリア機能を高める効果があることが知られています。

 近年、腸内細菌が存在しない無菌動物や、抗生物質の投与で腸内フローラのバランスを崩した動物を用いた研究から、腸内フローラが免疫系の成熟やその機能維持に寄与していることが報告されています。例えば、無菌状態で飼育したマウス(無菌マウス)では、腸管で免疫系の発達が悪く、関係する腸管関連リンパ組織(パイエル板や孤立リンパ小節)が非常に小さく、数も少ないことが知られています。また、粘膜の主要抗体である免疫グロブリンA(IgA)を作る形質細胞や、制御性T細胞の数も無菌環境では非常に減少しています。これら一連の異常はいずれも、無菌マウスに通常マウス由来のバランスのとれた腸内フローラを定着させることで正常に回復し、免疫系が機能するようになります。しかし、腸内フローラが腸管内で免疫系を調節する分子メカニズムについては不明でした。


<研究手法と成果>
 腸内細菌の一種であるクロストリジウム目[7]に属する細菌群が大腸の制御性T細胞を増やすことが最近明らかにされました。そこで、共同研究グループは、クロストリジウム目の細菌群を無菌マウスに定着させたノトバイオートマウス[8]を作製し、腸内細菌が制御性T細胞を増やすメカニズムを詳しく調べました。クロストリジウム目細菌は、大腸内で制御性T細胞の数を増やすだけでなく、盛んな腸内発酵によりさまざまな代謝産物を作り出すことが知られています。そこで、腸内発酵が制御性T細胞の数の増減にどのような影響を与えるのか調べました。クロストリジウム目細菌群定着マウスを、細菌の栄養源である食物繊維を多く含む食事を与えたマウス(高繊維食群)と、繊維をほとんど含まない食事を与えたマウス(低繊維食群)の2群に分けてその影響を調べたところ、高繊維食群でのみ制御性T細胞の増加が観察されました。この結果から、腸内発酵で作られる代謝産物が制御性T細胞への分化誘導に重要であることが分かりました。

 腸内細菌は多種多様な代謝産物を作っています。その中でどの代謝産物が制御性T細胞の数を増加させているのかを特定するために、マウスの盲腸に含まれる代謝産物を、メタボローム解析と呼ばれる手法で網羅的に調べました。その結果、短鎖脂肪酸やアミノ酸などが高繊維食群で上昇していることが分かりました(図1)。

 次に、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸を未熟なT細胞の培養液に添加し、制御性T細胞への分化誘導活性を調べました。その結果、酪酸に顕著な誘導活性が認められました(図2)。一方、アミノ酸にはこのような効果はありませんでした。

 さらに、大腸の酪酸濃度を高める効果がある酪酸化でんぷんを離乳したばかりのマウスに食べさせたところ、食べていないマウスに比べて、大腸の制御性T細胞の割合が約2倍に増加しました(図3)。また、大腸炎を起こす処置をしたマウスに酪酸化でんぷんを与えたところ、与えていないマウスに比べて、制御性T細胞の数が1.5~2倍に増加し、大腸炎の症状が抑制されました(図4)。

 最後に、酪酸がどのように未成熟なT細胞を制御性T細胞へと分化誘導しているかを調べました(図5)。酪酸には、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害作用があることが知られています。DNAは細胞の核内でヒストンというタンパク質に巻き付いており、このヒストンに付く「目印」の有無が遺伝子発現のオン・オフを制御しています。ヒストン脱アセチル化酵素は、アセチル基という目印を除去する酵素ですが、酪酸によりこの酵素が阻害されると、逆にヒストンのアセチル化[9]が促進されます。その結果、DNAがヒストンに巻き付く強さが緩まり、遺伝子の発現がオンに切り替わりやすくなります。そこで、酪酸を未成熟なT細胞の培養液に加える実験を行いました。その結果、未成熟なT細胞のDNAのうち、制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3遺伝子領域のヒストンのアセチル化が促進されて、遺伝子の発現がオンに切り替わることで制御性T細胞へと分化することが分かりました。このようにヒストンの「目印」の有無によって遺伝子発現のオン・オフが調節され、DNAの塩基配列に変化を起こさない現象は、エピジェネティクス制御と呼ばれています。つまり、腸内細菌が生産した酪酸が、T細胞のエピジェネティクス制御を介して制御性T細胞への分化を誘導していることが示されました(図6)。


<今後の期待>
 難治性疾患である炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)は消化管の慢性炎症であり、その完全な発症メカニズムや発症原因は不明です。近年の食生活の欧米化に伴って日本人の患者数は毎年増加しており、根本的な治療方法が望まれています。炎症性腸疾患の患者の腸内フローラには異常が認められますが、特に酪酸を作る細菌の割合の低下が顕著です。また、酪酸の生体内への取り込みが障害されることも報告されています。炎症性腸疾患における酪酸生産や取り込み低下の意義はよく分かっていませんでしたが、今回の研究により、酪酸が制御性T細胞への分化を誘導し、腸管の炎症を防ぐ重要な因子であることが分かりました。この成果は、炎症性腸疾患の発症メカニズムの解明に寄与するとともに、その治療法の開発にも役立つと期待できます。

 なお、本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「エピジェネティクスの制御と生命機能」(研究総括:向井常博)における研究課題「腸内共生系におけるエピジェネティックな免疫修飾」(研究者:長谷耕二)として行われました。

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