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理化学研究所とJST、半導体ポリマーの配向制御技術を開発

半導体ポリマーの配向制御技術を開発
-有機薄膜太陽電池の高効率化に向けて加速-


<ポイント>
 ・塗布型有機薄膜太陽電池(塗布型OPV)の実用化には変換効率の向上が最重要課題。
 ・アルキル基の長さを調整し半導体ポリマーの配向を制御する手法を確立。
 ・配向制御により変換効率を5%から7.5%に向上、塗布型OPVの高効率化に期待。

 JST課題達成型基礎研究の一環として、理化学研究所創発物性科学研究センターの尾坂格上級研究員らは、有機半導体の溶液を塗布して作る(塗布型)有機薄膜太陽電池(OPV)(注1)の変換効率向上の要となる半導体ポリマー(注2)の配向制御技術を開発しました。
 塗布型OPVは軽量で柔軟な上、有機半導体の溶液を塗布して作製でき大面積化が可能であるため、現在普及しているシリコン太陽電池にはない特長を持つ次世代太陽電池として注目されています。ただ変換効率が最大でも10%程度で、シリコン太陽電池(20%以上)より劣るため、変換効率の向上が急務です。従来、効率向上にはポリマーの吸収波長領域を広げる手法が主に検討されてきましたが、ほかにも光吸収によって発生した電荷がポリマー内で流れやすくする手法が考えられます。そのためには、ポリマーの配列方向(配向)を平行にそろえることが有効とされていますが、これまで配向が偶然そろうことはあっても、その機構は解明されておらず、制御は不可能でした。
 今回尾坂上級研究員らは、溶解性を高める目的で半導体ポリマーにアルキル基(注3)を導入した際に配向が変化したことにヒントを得て、導入するアルキル基の形状や長さの組み合わせを系統的に変化させました。その結果、導入した2種類の異なるアルキル基の長さがそろった時に、基板に対して垂直(「エッジオン(edge-on)」)であったポリマーの配向が、平行(「フェイスオン(face-on)」)になることを発見しました。「フェイスオン」のポリマーは、電流が流れる方向とポリマーの向きがそろい「エッジオン」に比べて電荷を流しやすいため、ポリマー膜を従来の2~10倍厚く作製することが可能です。ポリマー膜が厚くなったことで、太陽光をより効率的に集光できるようになり、約5%から最大7.5%まで変換効率が顕著に向上しました。さらに、厚いポリマー膜は均質な膜を形成しやすいことから、大面積のOPVが作りやすくなるという相乗効果も得られます。
 本成果で得られた半導体ポリマーの自在な配向制御技術を塗布型OPV開発に活用することで、実用化の目安とされる変換効率15%の到達に向けて研究開発が大きく加速することが期待できます。将来的には、大面積の塗布型OPVの製造にも大きく貢献することが期待されます。
 本研究成果は、2013年10月7日(現地時間)にドイツ科学雑誌「AdvancedMaterials」のオンライン速報版で公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)
   研究領域:「太陽光と光電変換機能」
          (研究総括:早瀬修二九州工業大学大学院生命体工学研究科教授)
   研究課題名:「高効率有機薄膜太陽電池を目指した新規半導体ポリマーの開発」
   研究者:尾坂格((独)理化学研究所上級研究員)
   研究実施場所:(独)理化学研究所創発物性科学研究センター
   研究期間:平成21年10月~平成25年3月
 この研究領域では、化学・物理・電子工学などの幅広い分野の研究者の参画により異分野融合を促進し、次世代太陽電池の実用化につながる新たな基盤技術の構築を目標として、理論研究から実用化に向けたプロセス研究に渡る広域な研究を対象とするものです。


<研究の背景と経緯>
 半導体ポリマーを材料として用いて塗布することで作製する(塗布型)有機薄膜太陽電池(OPV)は、軽量で柔軟という特長を持ち、さらに、塗布という安価なプロセスで大面積に作製できることから、次世代の太陽電池として注目されています。実用化に向けては、すでに実用化されているシリコン太陽電池の効率が20%以上であるのに比べて、10%程度に止まっているエネルギー変換効率の向上が最も重要な課題です。高効率化には、一般的にできるだけ多くの太陽光エネルギーを吸収し、それによって発生した電荷を効率よく輸送することが求められます。従来、太陽光の吸収は、ポリマーの吸収波長領域を広げることで改善されてきました。一方で、OPVでは吸収した光エネルギーを電荷に変換するためにフラーレン誘導体(炭素原子によるサッカーボール状の構造物)をポリマーに混ぜているため、このような混合状態で電荷の輸送効率を向上させるのは難しく、これまで改善策はあまり検討されていませんでした。最近になって、このような混合状態の中でも、ポリマーが基板に対して平行な「フェイスオン(face-on)」配向という電荷が流れやすい配向状態を形成するポリマーが報告され、それが変換効率向上の鍵になることが分かってきました。ところが、これまでポリマーの配向を制御する分子設計指針は確立されておらず、OPVの効率向上を担う半導体ポリマー材料を開発する上で重要な課題とされていました。


<研究の内容>
 尾坂上級研究員らは、これまでの半導体ポリマー研究から、溶解性を高めるために用いるアルキル基の種類によって、ポリマーの配向性が変わるのではないかと考えました。そこで、以前に独自に開発した基板に垂直な「エッジオン(edge-on)」配向を形成するポリマーの側鎖(R1とR2(◇))に、さまざまな長さの直線状と分岐状のアルキル基を導入しました(図1)。これらのポリマーの薄膜を作製し、大型放射光施設SPring-8(注4)で、X線回折測定を行ったところ、ある法則に従ってポリマーの配向性が変化することが分かりました。
 このポリマーには側鎖であるR1とR2へ、2種類のアルキル基を導入することができますが、直線状と分岐状のアルキル基をそれぞれ導入しても、ともに分岐状のアルキル基を導入しても、2種類のアルキル基の長さがそろっているときに、従来「エッジオン」であったポリマーの配向が「フェイスオン」となることが新たに分かりました(図2)。これは、分岐状のアルキル基を導入することが、フェイスオン配向の引き金となり、さらにアルキル基同士の長さをそろえて規則性を高めることで、よりそろったフェイスオン配向になったものと考えられます。
 実際にOPVを作製すると、フェイスオン配向のポリマーのエネルギー変換効率が著しく高いことが分かり、従来の5%から7.5%まで大きく効率が向上しました(図3)。この変換効率の向上は、特に200nm以上の厚いポリマー膜を形成したときに見られました。ポリマー膜が厚ければ多くの太陽光エネルギーを吸収できるために高効率化には有利なはずですが(図4a)、従来はポリマーの電荷の輸送性が十分でないため、それによって発生した電荷をうまく輸送できずに、膜を厚くすると逆に効率が低下していました。しかし、今回、このように配向を制御して電荷輸送性を向上させることで、一般的な素子に比べて2~10倍の厚さの薄膜を用いて太陽光の吸収量を増やし、OPVの効率向上につながることを見いだしました(図4b)。

 ◇の正式表記は、添付の関連資料を参照


<今後の展開>
 今回、アルキル基の組み合わせを調整することで、ポリマーの配向制御を実現しました。また、フェイスオンに配向制御したポリマーを用いることで、厚い薄膜を利用して塗布型OPVの効率を向上させることに成功しました。アルキル基はどのようなポリマーに用いられるため、このアルキル基の調整による配向制御は非常に適用範囲の広い技術と言えます。今回は配向制御に焦点を当てる目的で必ずしもOPVに最適とはいえない基本構造をもつポリマーを用いたため、OPVの変換効率は7.5%に留まっていますが、今後、さらに吸収波長領域が広く電荷輸送性も高いOPVにより適した基本構造をもつポリマーを開発することができれば、この配向制御技術を応用することで、実用化の目安とされるエネルギー変換効率15%の到達に大きく近づくことが可能となります。さらに、厚膜化により均質な薄膜を形成しやすくなるため、従来のポリマーに比べて大面積に塗布することが容易になり、塗布型OPVの製造にも大きく貢献することが期待できます。


<付記>
 本研究は、理化学研究所創発物性科学研究センターの瀧宮和男グループディレクター、広島大学の斎藤慎彦氏、およびSPring-8の小金澤智之博士と共同で行われたものです。
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