2013/08/31 Category : 未選択 東大、血液細胞が骨髄球性前駆細胞と造血幹細胞から分化される分化経路を発見 意外な血液細胞の分化モデルの発見 1.発表者: 中内 啓光 (東京大学医科学研究所附属幹細胞治療研究センター 幹細胞治療分野 教授) 2.発表のポイント: ◆血液細胞が、自己複製能力を有する骨髄球性前駆細胞と造血幹細胞から分化される新しい分化経路を発見した。 ◆従来考えられていた造血幹細胞の分化モデルの学説を覆す、生物学や医学の教科書を書き換える発見である。 ◆血液細胞の分化モデルを正しく理解することにより、新しいメカニズムの同定につながる可能性がある。それにより造血幹細胞やある特定の血液細胞の試験管内での増幅など再生医療への応用も期待される。 3.発表概要: 東京大学医科学研究所附属幹細胞治療分野の中内啓光教授、山本玲特任研究員らのグループは、従来の血液細胞の分化モデルの学説を覆す、新しいモデルを見いだしました。 造血幹細胞(注1)は骨髄中にあり、一生涯にわたって体内のすべての血液細胞(主に赤血球、血小板、顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球の5系統の血液細胞)を供給しています。このような特徴は、造血幹細胞の自己複製能(分裂により自己と同じ細胞を作り出せる能力)・多分化能(5系統すべての血液細胞に成熟できる能力)と呼ばれています。従来の血液学の学説では、この自己複製能力は造血幹細胞の特徴的な能力で、その造血幹細胞が自己複製能力を失い、徐々に赤血球・血小板・白血球等の成熟血液細胞を産生すると考えられてきました。しかしながらこれまでの研究では顆粒球やリンパ球の解析が中心で、核を持たない赤血球や血小板については顆粒球やリンパ球と同時に体内で解析したものではなく、従来の学説は必ずしも実験的に証明されているものではありませんでした。 今回、本研究グループは、赤血球、血小板を含む5系統すべての血液細胞において蛍光色素クサビラオレンジを発現するマウスを作成し、骨髄中の血液細胞の分化能力を詳細に解析した結果、造血幹細胞以外にも自己複製能をもつ骨髄球系前駆細胞が存在することを見いだしました。また、この骨髄球系前駆細胞は、これまでの学説と異なり、造血幹細胞から直接産生されていることを初めて明らかにしました。 本研究により、造血幹細胞の新しい分化モデルが明らかになり、造血幹細胞や他の血液細胞の増幅技術の開発、白血病等の血液疾患の病態の解明や治療法の開発に貢献することが期待されます。 4.発表内容: 骨髄の中にある造血幹細胞は、一生涯にわたって、毎日数千億個もの新しい成熟血液細胞(主に赤血球、血小板、顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球)を供給しています。このような特徴は、造血幹細胞の自己複製能・多分化能と呼ばれています。造血幹細胞からどのように血液細胞が産生されるか、これまでも研究は精力的に行われてきていました。しかしこれまでの研究の多くは、マウス個体内で白血球抗原CD45を指標にしたシステムにより顆粒球・Bリンパ球・Tリンパ球への分化能のみを観察することによって行なわれてきました。一方、赤血球や血小板は核を持たずCD45を発現していないため、これらの細胞への分化能力は、試験管レベルの実験など別の手法を用いて観察されていました。そうした研究成果のもと、造血幹細胞は、その多分化能は維持したまま自己複製能のみを失って造血多能性前駆細胞となり、さらに骨髄球性前駆細胞とリンパ球性前駆細胞に分かれ、最終的に成熟血液細胞を産生するという分化モデルが教科書的には主流でした。しかし、この分化モデルは上記のような問題から必ずしもすべてが実験的に証明されているものではありませんでした。 この問題を解決するために、まず、赤血球、血小板、顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球の5系統の成熟血液細胞が蛍光色素クサビラオレンジで標識されたマウス(クサビラオレンジマウス)を作製しました。このマウスを用いることにより、マウス体内においてCD45の発現に依存することなく赤血球・血小板を含む5系統すべての成熟血液細胞を蛍光により判別できます。 まず、このクサビラオレンジマウスの骨髄細胞から単一細胞を分取し、他のマウスに移植しました。その後、定期的に末梢血を解析することにより、移植した単一細胞がどの種類の成熟血球を産生する能力をもっているか評価しました。その結果、単一細胞レベルで自己複製能力のある前駆細胞として、血小板のみを産生しつづける前駆細胞(megakaryocyte repopulating progenitor)、赤血球・血小板のみを産生し続ける前駆細胞(megakaryocyte-erythroid repopulating progenitor)、赤血球・血小板・顆粒球のみを産生し続ける前駆細胞(common myeloid repopulating progenitor)を初めて同定しました。また、娘細胞対アッセイ解析法(注2)を用いて、造血幹細胞が、上記の3種類の前駆細胞を直接的に産生することを示しました。本研究の結果は、造血幹細胞から成熟血液細胞を産生する最初の過程において、自己複製能力の喪失は必須ではないこと、さらに段階的に分化能力を失っていく従来の血液細胞の分化モデルとは異なる、これまで知られていなかった血液細胞の分化経路が存在することを示しています。 造血幹細胞を起点に、段階的に各血液細胞が作り出されるという従来の分化モデルは、生物学や医学の教科書に頻繁に記載されており、今回の研究成果は、これまでの学説を覆すもので、新たに教科書を書き換える成果であるといえます。造血幹細胞は、他の体性幹細胞(注3)の中でも最も古くから精力的に研究のなされていた分野であり、他の種類の体性幹細胞を研究する際にもモデルとなっています。本研究成果は、他の体性幹細胞の研究にも影響を与える可能性があります。さらに、より正確に造血幹細胞の分化系図を理解することにより、新たな分子メカニズムの発見にもつながり、造血幹細胞やある特定の血液細胞の試験管内での増幅に加え、胚性幹細胞・人工多能性幹細胞(注4)から造血幹細胞を誘導するという再生医療の発展、血液疾患のメカニズムの解明や白血病を始めとする難病治療への応用にも有用であると期待されます。 5.発表雑誌: 雑誌名:「Cell」(2013年8月29日オンライン版) 論文タイトル:Clonal analysis unveils self-renewing lineage-restricted progenitors generated directly from hematopoietic stem cells. 著者:Ryo Yamamoto, Yohei Morita, Jun Ooehara, Sanae Hamanaka, Masafumi Onodera, Karl Lenhard Rudolph, Hideo Ema, Hiromitsu Nakauchi(*) *Corresponding author DOI番号:10.1016/j.cell.2013.08.007 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword