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東大など、オスマウスの性行動を抑制する幼少フェロモンを発見

オスマウスの性行動を抑制する幼少フェロモンを発見


1.発表者:
 David M.Ferrero(Department of Cell Biology,Harvard Medical School)
 Lisa M.Moeller(Institute for Biology II,RWTH Aachen University)
 小坂田拓哉(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻博士課程)
 堀尾奈央(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻学振PD研究員)
 Qian Li(Department of Cell Biology,Harvard Medical School)
 Dheeraj S.Roy(Department of Cell Biology,Harvard Medical School)
 Annika Cichy(Institute for Biology II,RWTH Aachen University)
 Marc Spehr(Institute for Biology II,RWTH Aachen University)
 東原和成(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻教授/JST ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト研究総括)
 Stephen D.Liberles(Department of Cell Biology,Harvard Medical School)


2.発表のポイント:
 ◆メスの幼少マウスの涙腺から分泌される、大人のオスマウスの性行動を抑制するフェロモンを発見しました。
 ◆このフェロモンは、大人のオスマウスの鋤鼻(じょび、(注1))神経系で感知され、脳にその情報が伝わることを明らかにしました。

 ※マウスにおける化学感覚と行動の分子神経基盤の理解を深めるものですが、ヒトでは鋤鼻器が機能していないため、直接、ヒトへの応用に結びつくものではありません。


3.発表概要:
 匂い、フェロモン、味物質といった化学感覚シグナルが情動や行動を引き起こすまでの生体内のメカニズムを解明する研究を進めるなかで、今回、オスマウスの性行動を抑制する幼少フェロモンを発見しました。
 大人のオスマウスは、性成熟前の幼少メスマウスに交尾をしかけることはありません。すなわち、大人のオスマウスは、性成熟前の幼少メスマウスから、性成熟前であるという何らかの信号を受け取っているため、性行動が抑制されていると考えられます。しかし、その信号がどのような物質であるのか、またその物質がどこで感知されて、処理されるのかは分かっていませんでした。
 東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授らの研究グループは、ハーバード大学とアーヘン工科大学と共同で、性成熟前の2-3週令の幼少メスマウスの涙腺から、大人のオスマウスの交尾行動を抑制する幼少フェロモンが分泌されていることを発見しました。そのフェロモン(注2)は、ESP22という分子量約10kDa(キロダルトン、注3)のタンパク質で、大人のオスマウスの鋤鼻(じょび、注1)神経系で感知され、脳にその情報が伝わり、その結果、オスマウスの性行動が抑制されます。本研究の成果は、マウスの性行動の理解を深めるもので、倉庫や製造所などで問題になっているマウスの繁殖の制御に応用できる可能性が期待されます。


4.発表内容:
 匂いやフェロモンといった化学感覚シグナルは、哺乳類の様々な行動や情動を制御しています。なかでも、尿、涙、唾液、汗などの外分泌液に含まれるフェロモン(注2)は、嗅覚神経回路を介して脳にその情報が伝わり、その結果、社会行動や性行動など、哺乳類にとって重要な行動が制御されます。例えば、マウスの尿からは、異性を引き付ける揮発性のフェロモン物質が発せられます。その他にも、オスマウスの涙にはESP1(注4)というメスマウスが背中をそらしてオスマウスの交尾を受入れやすくする体勢(交尾受け入れ行動)を促進するフェロモンが含まれています。フェロモンがあることによって、動物の様々な行動が健全に管理され、種の維持と存続が保証されます。
 今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授らの研究グループは、性成熟する前の幼少メスマウスの涙に特異的に分泌されるタンパク質を発見しました。それは、ESPファミリー(注5)に属しているESP22という分子量約10kDaのタンパク質で、生後2-3週令で分泌量が最大になり、性成熟する4週令になると急に減少しはじめ、大人になるとほとんど分泌されなくなります。この分泌の変化は、ESP22は「まだ性成熟していないよ」という幼少メスマウスからの信号であるという仮説を立て、マウスの行動を観察する実験と脳の情報処理機構を明らかにする実験とを行いました。
 多様な系統のマウスを調べたところ、CBAとC3Hというマウスの系統ではESP22が分泌されていないことがわかりました。驚くべきことに、大人のオスマウスは、2-3週令のESP22を分泌する他のマウス系統(C57BL/6やBALB/c)のメスマウスに対してより、同じ週令のCBAやC3H系統のメスマウスに対して交尾行動(マウント)を3-5倍多くしかけることがわかりました。具体的には、大人のオスマウスはC57BL/6やBALB/c系統の幼少メスマウスには30分に5-15回の頻度でマウントをしかけたのに対して、CBAやC3H系統の幼少メスマウスに対しては30-40回ほどでした。一方、ESP22を分泌しないC3H系統の2-3週令の幼少メスマウスにESP22を塗ると、大人のオスマウスは全くマウントをしかけなくなりました。加えて、性成熟した大人のメスマウスにESP22を塗ると、塗らない場合と比べて、大人のオスマウスは3分の1程度しかマウントをしかけなくなりました。具体的には、大人のオスマウスは大人のメスマウスに対して通常30分に40回程度マウントをしかけるところ、ESP22を塗られた大人のメスマウスに対しては30分に15回程度まで減少しました。
 次に、ESP22がどこで感知され、脳のどこで情報処理されているかを調べました。ESP1などのフェロモンは、鼻腔の下部の鋤鼻器(注1)という組織で感知されていることが知られています。そこで、鋤鼻器の機能を欠損した大人のオスマウスを用いたところ、ESP22による交尾行動の抑制は見られませんでした。また、ESP22を大人のオスマウスの鋤鼻神経に投与すると神経の活性化(電気信号)が見られました。さらに、そのESP22によって引き起こされる信号は、扁桃体という情動や本能的行動が制御される脳領域に入力されていました。つまり、ESP22はフェロモンを感知する鋤鼻神経系で情報処理されるということです。
 これらの結果を総合すると、ESP22は、性成熟する前のメスマウスに交尾をしかけるような余計なことをしないように、大人のオスマウスの性行動を抑制する幼少フェロモンであることがわかりました(図1)。一方、ESP22をコードするDNAの塩基配列は、ヒトゲノム上には存在せず、鋤鼻器もヒトでは機能しておらず、直接、ヒトへの応用に結びつくものではありません。本研究の成果は、マウスの行動がどのような化学感覚シグナルによって制御されているか、その理解を深めるもので、今後、哺乳類の情動や行動を支配・制御する脳神経回路の解明に向けて、有用な基礎研究基盤となるものです。また、倉庫や製造所などで問題になっているマウスの過剰繁殖の制御など、応用面への展開も期待されます。
 本研究は、ハーバード大学とアーヘン工科大学との共同研究成果です。また、独立行政法人科学技術振興機構(JST)のERATO東原化学感覚シグナルプロジェクトの研究の一環として行われました。ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクトでは、匂い・フェロモン・味物質などの化学感覚シグナルが、どのようにして情動や行動に至るのか、そのメカニズムを分子レベルで解き明かし、「医療」や「健康」、「食」といった産業展開に繋がる成果の蓄積を目指しています。


5.発表雑誌:
 雑誌名:Nature
 論文タイトル:A juvenile mouse pheromone inhibits sexual behavior through the vomeronasal system
 著者:David M.Ferrero,Lisa M.Moeller,Takuya Osakada,Nao Horio,Qian Li,Dheeraj S.Roy,Annika Cichy,Marc Spehr,Kazushige Touhara,and Stephen D.Liberles
 DOI番号:10.1038/nature12579

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