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理化学研究所、光合成膜タンパク質への水の供給経路と酸素・水素イオンの排出経路を解明

光合成による水分解メカニズム解明に向かって大きく前進
―光合成膜タンパク質への水の供給経路と酸素、水素イオンの排出経路が明らかに―


<ポイント>
 ・植物体内を忠実に再現した約120万原子の分子動力学シミュレーションを実行
 ・酸素発生中心(OEC)を取り囲むタンパク場の効果(ダイナミクス)を明示
 ・天然光合成メカニズムの解明と人工光合成デバイス開発の加速に期待

<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、分子動力学シミュレーション[1]を使い、光合成膜タンパク質への水の供給経路と酸素、水素イオンの排出経路を明らかにしました。これにより、光合成による水分解メカニズムの解明に向かって大きく前進しました。これは、理研イノベーション推進センター(藤田明博センター長)中村特別研究室の中村振一郎特別招聘研究員、緒方浩二研究員、畠山允リサーチアソシエイトらの研究チームによる成果です。

 光合成の初期過程を担う膜タンパク質「PhotosystemII(PSII)」[2]は、太陽光エネルギーを利用して水を酸素と電子、水素イオンに分解する反応(酸化反応)を行っています。その立体構造はX線結晶構造解析で決定され、酸素発生中心(OEC)などの詳細な構造も明らかになっています。OECでは、Mn4O5Ca錯体と周りの残基(重合体の主鎖以外の部分)が協調することにより、周期的な5つの状態を経て水の酸化反応が行われていますが、その動的メカニズムの詳細は不明なままです。

 PSIIタンパク質はチラコイド膜[3]と呼ばれる植物特有の生体膜上に存在しています。研究チームは、この膜を忠実に再現し、膜内にPSIIタンパク質を埋め込んだモデルを作成しました。また、シミュレーションに用いる全ての脂質やリガンド(特定タンパク質と結合する化合物)の力場パラメータ[4]を量子化学計算によって作成し、モデルに組み込みました。

 原子数約120万個のモデルの分子動力学シミュレーションの結果を解析したところ、PSIIタンパク質内部から外に排出される水と、外からPSIIタンパク質内部に取り込まれる水の動きが観察されました。さらに詳しく調べるとアミノ酸の水素結合ネットワークの中にあまり動かない水分子がある経路が存在していました。これらの結果から、水の供給経路と酸素、水素イオンの排出経路が明らかになりました。この成果は、天然光合成のメカニズムの全容解明や人工光合成デバイスの開発につながると期待できます。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』(2013年135号)に掲載されました。

<背景>
 植物は光合成により、太陽光エネルギーを使って、水と二酸化炭素(CO2)から酸素とデンプンを作り出しています。光合成は2段階に分かれ、1段階目は太陽光エネルギーを使って水を分解し、酸素と電子、水素イオンを作ります(酸化反応)。2段階目は、電子と水素イオンを使って、CO2からデンプンを作ります。1段階目の酸化反応を担っているのが、チラコイド膜と呼ばれる植物特有の生体膜上に存在する膜タンパク質「PhotosystemII(PSII)」です。PSIIタンパク質は、20個のサブユニットを持つ複合体で、その立体構造は2011年に理研の大型放射光施設「SPring-8」を使ったX線構造結晶解析法で決定され、「蛋白質構造データバンク(PDB)」に登録されています。また、立体構造からPSIIタンパク質内部の酸素発生中心(OEC)などの詳細な構造も明らかになっています。OECでは、Mn4O5Ca錯体と周りの残基(重合体の主鎖以外の部分)が協調することにより、周期的な5つの状態を経て水の酸化反応が行われていますが、その動的メカニズムの詳細はまだ解明されていません。

 天然光合成のメカニズム解明は、それを模した人工光合成デバイスの開発を加速し、石油に代わるエネルギー開発の大きなヒントとなると期待されており、その解明が急がれています。

 研究チームは、分子動力学シミュレーションや量子化学を用いて光合成のメカニズム解明に取り組んでおり、光合成における水の供給経路と酸素、水素イオンの排出経路を探索する研究を進めてきました。

<研究手法と成果>
 研究チームは分子動力学シミュレーションを行うために、まず、チラコイド膜を忠実に再現し、そこにPSIIタンパク質を埋め込んだモデルを作成しました。PSIIタンパク質は分解能1.9オングストローム(Å)の精度で構造解析されていますが、詳細な構造が未解明な領域が存在します。その部分に関してはホモロジーモデリング法[5]により構造を決定しました。次に、植物体内を忠実に再現するため、PSIIタンパク質とチラコイド膜のモデルを水のボックスに入れて、水溶液中のモデルを作成しました。PSIIタンパク質とチラコイド膜には100種類以上のリガンド(特定タンパク質と結合する化合物)と脂質が存在します。そこで、その全ての力場パラメータを量子化学計算によって作成し、モデルに組み込みました。このモデルの原子数は、水を含んで約120万個になります。

 こうして作成したモデルを用いて分子動力学シミュレーションを行いました。シミュレーションは等温定圧(300K、1気圧)の条件で10ナノ秒(1ナノ秒=10億分の1秒)行いました。時系列の詳細な動きを調べるため、50ピコ秒(1ピコ秒=1兆分の1秒)ごとのシミュレーション結果をスナップショットとして保存し解析しました。解析にはシミュレーション開始2ナノ秒から10ナノ秒までの8ナノ秒間のスナップショットを用いました(図1)。時系列データを解析したところ、PSIIタンパク質内部から外へ排出される水分子と外からPSIIタンパク質内部へと供給される水分子の経路が観察されました(図2)。これらの経路は水の供給と酸素の排出に使用されている可能性を示しています。

 次に、各残基と水分子がどのくらい揺らいだか(動いたか)を調べるため、RMS変動(rms-fluctuation)[6]を求めました。RMS変動の結果から、アミノ酸の水素結合ネットワークの中にあまり動かない水分子がある経路が存在していることが分かりました(図2)。この経路は水素イオンが放出されるのに便利であることから水素イオンの放出経路として使用されている可能性を示しています。

<今後の期待>
 今回、光合成膜タンパク質への水の供給経路と酸素、水素イオンの排出経路が明らかになりました。これは、天然光合成のメカニズムの全容解明への第一歩といえます。また、PSIIタンパク質による水の酸化反応のメカニズムを模倣した人工光合成デバイスの開発に寄与すると期待できます。

<原論文情報>
 ・Koji Ogata,Taichi Yuki,Makoto Hatakeyama,Waka Uchida,and Shinichiro Nakamura,“All-atom molecular dynamics simulation of photosystem II embedded in thylakoid membrane”.Journal of the American Chemical Society,2013,doi:10.1021/ja404317d

<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 イノベーション推進センター 中村特別研究室
 特別招聘研究員 中村 振一郎(なかむら しんいちろう)
PR

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