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基礎生物学研究所、霊長類の大脳皮質で特定の遺伝子のON/OFFが調節される仕組みを解明

霊長類大脳皮質領野で特定の遺伝子のON/OFFが調節される仕組みの解明



 大脳皮質は、ほ乳類の高次脳機能に中心的役割を担うものであり、霊長類、特にヒトで良く発達し、脳全体を覆うに至ります。大脳皮質はその場所によって異なる機能を持つことが知られており、それぞれ連合野、運動野、視覚野などの「領野」として区別されています。領野ごとの違いがどのように形成されるのかは、大変興味深いテーマですが、未だ多くの謎に包まれています。
 基礎生物学研究所の脳生物学研究部門では、これまでに霊長類を用いて、脳の領野によって異なる発現パターンを示す遺伝子を発見してきました。それらの遺伝子は、例えば、連合野で発現し(ONになり)、視覚野では発現しない(OFFになる)、という発現の調節が行われていますが、領野の違いによって特定の遺伝子のONとOFFが調整される仕組みは、全く不明でした。
 今回、畑克介研究員と山森哲雄教授らは、マカクザルの連合野ではONになり、視覚野ではOFFになる遺伝子の領野特異的な発現調節の仕組みの一端を明らかにしました。連合野特異的にONになる遺伝子のグループは、遺伝子発現を調節するプロモーター領域が高い割合でメチル化されていること、および、メチル化DNA結合タンパク質の一つとして知られるMBD4が連合野特異的に存在していることがわかりました。また、メチル化されたプロモーター領域にMBD4が結合することで、連合野特異的に遺伝子がONになることも明らかとなりました。これは霊長類の脳において、領野特異的な遺伝子のON/OFFの調節機構が明らかとなった初めての例です。
 高度な認知機能を司る霊長類連合野に特異的に発現する遺伝子の発現機構はこれまで全く判っておらず、今回の成果は、今後の霊長類の大脳皮質の発達に関する研究と精神疾患の病因解明や治療等の研究につながる可能性が期待されます。この成果は、米国神経科学会誌Journal of Neuroscience(ジャーナルオブニューロサイエンス)2013年12月11日号にて発表され、「This Week in The Journal」として紹介されました。


[本研究の背景]
 大脳皮質は「領野」と呼ばれる50程の区分に分けられ、それぞれの領野は、視覚や聴覚、運動機能などの機能を司ります。山森研究室では、霊長類の大脳皮質の領域特異的な機能分担や、脳の進化を探ることを目的として、マカクザル大脳皮質領野に特異的に発現する遺伝子の探索を行ってきました。霊長類大脳皮質の代表的領野である前頭連合野、側頭連合野、運動野、一次視覚野間で顕著な差のある遺伝子発現を比較検討し、RBP4遺伝子、PNMA5遺伝子、SLIT1遺伝子が連合野特異的に発現していること、HTR1B遺伝子、HTR2A遺伝子、FSTL1/OCC1遺伝子が一次視覚野特異的に発現していることを明らかにしてきました。

 霊長類以外(例えばネズミやウサギやフェレットなど)では、これらの遺伝子は、領野特異的な発現を示しません。このことは、霊長類大脳皮質の領野特異的遺伝子の発現メカニズムは霊長類への進化の過程で備わったものであり、この機構を明らかにすることは、霊長類の脳の発達や進化のメカニズムの解明に重要な知見をもたらすものと期待されます。これら領野特異的遺伝子の発現パターンが各グループで良く似ていることから、共通の発現制御機構があると推測してその解明を目指しました。


[本研究の内容]
 研究グループは、連合野において特異的に発現する遺伝子のグループ(RBP4遺伝子,PNMA5遺伝子,SLIT1遺伝子)と、一次視覚野において特異的に発現する遺伝子のグループ(HTR1B遺伝子,HTR2A遺伝子,FSTL1遺伝子)の、プロモーター領域のDNAメチル化の程度を解析しました。その結果、連合野に特異的な発現をする遺伝子グループのプロモーター領域は高度にメチル化されているが、一次視覚野に特異的な発現をする遺伝子グループのプロモーター領域はメチル化の程度が低いことを発見しました。

 さらに、メチル化DNA結合タンパク質の一つとして知られるMBD4の遺伝子発現が連合野特異的遺伝子と非常に似た発現を示すことがわかりました。
 また、メチル化DNA結合タンパク質MBD4が連合野特異的遺伝子の高度にメチル化されたプロモーターに結合し、その結果として連合野に特異的な遺伝子発現を促すことが明らかとなりました。DNAのメチル化による遺伝子発現の制御は、DNAの塩基配列の変化を伴わないエピジェネティクスな機構として、生物の多様な表現型の形成や、種々の発達障害、がん化などに関わることが近年明らかになってきています。本研究は、霊長類の脳において、領野特異的な遺伝子のON/OFFの調節機構が明らかとなった初めての例であり、その調節がDNAのメチル化によるエピジェネティクスな機構でコントロールされていることを示しました。


[今後の展開]
 高度な認知機能を司る霊長類連合野に特異的に発現する遺伝子の発現機構はこれまで全く判っておらず、今回の成果は、今後、霊長類の大脳皮質の発達に関する研究、精神疾患の病因解明や治療等につながる可能性があります。


[発表雑誌]
 米国神経科学会誌 Journal of Neuroscience(ジャーナルオブニューロサイエンス)
 2013年12月11日号に掲載

 論文タイトル:
 "DNA Methylation and Methyl-Binding Proteins Control Differential Gene Expression in Distinct Cortical Areas of Macaque Monkey"

 著者:Katsusuke Hata,Hiroaki Mizukami,Osamu Sadakane,Akiya Watakabe,Masanari Ohtsuka,Masafumi Takaji,Masaharu Kinoshita,Tadashi Isa,Keiya Ozawa,and Tetsuo Yamamori


[研究グループ]
 本研究は、自然科学研究機構・基礎生物学研究所・脳生物学研究部門の畑克介博士、定金理助教、渡我部昭哉准教授、大塚正成博士、高司雅史博士、山森哲雄教授が中心となり、生理学研究所の木下正治助教(現弘前大学准教授)、伊佐正教授、自治医科大学の水上浩明准教授、小澤敬也教授のサポートにより行われました。


[研究サポート]
 この研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の一環として、また、科学研究費補助金新学術領域「神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築」のサポートにより実施されました。
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