- 2025/04/20
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プレスリリース、開示情報のアーカイブ
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従来の数万分の1の触媒量で機能するパラジウム触媒を開発
-大規模な化学プラントでも実用可能な触媒へ-
<ポイント>
・シリコンナノワイヤーアレイにパラジウムナノ粒子触媒を固定化
・溝呂木-ヘック反応で触媒回転数200万回転の世界最高効率を実現
・省資源化の実現、レアメタル依存を低下させ、グリーンイノベーションへ
<要旨>
理化学研究所(理研、野依良治理事長)、科学技術振興機構(中村道治理事長)、九州大学(有川節夫総長)は、有機太陽電池材料や医薬品の合成に使用可能で、高効率な触媒反応を示す「シリコンナノワイヤーアレイ[1]担持パラジウム触媒」の開発に成功しました。これは、理研環境資源科学研究センター(篠崎一雄センター長)グリーンナノ触媒研究チームの山田陽一副チームリーダー、魚住泰広チームリーダー(自然科学研究機構分子科学研究所教授兼務)と、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER(◇))の藤川茂紀准教授の共同研究グループによる成果です。
◇「I2CNER」の正式表記は、添付の関連資料を参照
触媒は、特定の化学反応の反応速度を速める物質であり、さまざまな化学製品の製造に用いられています。触媒を利用し、2つの化学物質を選択的に結合させるクロスカップリング[2]という反応は、医薬品合成、機能性材料合成、石油化学製品製造において重要な役割を果たしています。しかし現在、パラジウムを触媒として用いたクロスカップリングでは、高価なレアメタルであるパラジウムを大量に使用する方法しか確立されていません。このため、微量で機能する触媒が開発できれば、低コスト化や省資源化、レアメタルへの依存低下につながります。
共同研究グループは、原料1molに対して1ppm[3]未満で機能する固定化触媒の開発を目指し、シリコンナノワイヤーアレイにパラジウムナノ粒子を固定させた「シリコンナノワイヤーアレイ担持パラジウム触媒」を開発しました。実際に、この触媒を使い、クロスカップリングの反応のひとつである溝呂木-ヘック反応[4]を行ったところ、従来に比べて数万分の1の量に相当する0.49ppmで反応が進行しました。また、触媒活性の指標である触媒回転数も200万回転に達し、この反応に有効な固定化触媒として世界最高効率を実現しました。今後、さらに触媒の改良が進むと、大規模な化学プラントで実用可能な触媒へと発展していく可能性があります。
本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)先導的物質変換領域(ACT-C)として行われ、ドイツの科学雑誌『Angewandte Chemie International Edition』に掲載されるに先立ち、オンライン版に近日中に掲載されます。
<背景>
触媒は、化学反応の反応速度を速める物質であり、さまざまな化学製品の製造に用いられています。触媒を利用し、2つの化学物質を選択的に結合させるクロスカップリングという反応は、医薬品合成、機能性材料合成、石油化学製品製造において重要な役割を果たしています。クロスカップリングのひとつである溝呂木―ヘック反応は、1kg当たり100万円以上もするレアメタルであるパラジウムを触媒として使用する方法しか確立されていません。必要となるパラジウム量は、原料に対して数%と大量で、高い費用がかかります。省資源の実現の観点からも、ごく微量で機能し、回収・再利用が容易な固定化パラジウム触媒の開発が重要な課題となっています。
今回、共同研究グループは、原料1molに対して1ppm(1 mol ppm)未満で機能する固定化触媒の開発を目指しました。
<研究手法と成果>
共同研究グループは、パラジウムを固定化する土台となる物質として、シリコン基板上に多数のシリコンナノワイヤーがブラシのように多数形成されたシリコンナノワイヤーアレイに注目しました。シリコンナノワイヤーアレイの多数のナノスケール空間にパラジウムナノ粒子触媒を固定化できれば、ナノ空間で瞬間的に化学反応が進行します。その結果、ごく少量のパラジウム触媒で、効率的なクロスカップリングが実現できると考えました。
まず、厚さが数μmから数百nm程度のシリコンナノワイヤーをシリコン基板表面に形成したシリコンナノワイヤーアレイを作製しました。次に、このシリコンナノワイヤーアレイをパラジウム塩(Pd(II))水溶液に浸すことで、パラジウムナノ粒子の固定化を試みました。その結果、予想通り固定化することができました。パラジウムナノ粒子は、基板表面でケイ素-水素種によるパラジウムの還元反応により成長し、固定化されたものであることが分かりました。
続いて、作成したシリコンナノワイヤーアレイとパラジウムナノ粒子の複合体「シリコンナノワイヤーアレイ担持パラジウム触媒」(図)を用いて、クロスカップリングの反応の1つである溝呂木-ヘック反応を行いました。従来に比べ、数万分の1に相当する0.49 mol ppm(原料1molに対して0.49ppm)の触媒量で反応させたところ、触媒活性の指標である触媒回転数が200万回転(=触媒1分子から生成物が200万分子合成される)で反応が進行し、目的とする生成物が合成されました。さらに、開発した触媒を有機太陽電池合成に重要な炭素-水素結合官能基化反応[5]やアルケンの水素化反応[6]、α、β不飽和カルボルニル化合物のヒドロシリル化反応[7]など、さまざまなクロスカップリング反応に適用したところ、反応が進むことが分りました。
実際に、この触媒を気管支喘息の薬剤であるオザグレルの合成に用いた結果、触媒量を0.49ppmで行った溝呂木-ヘック反応とその後の変換反応を経て、合成することに成功しました。
<今後の期待>
理化学研究所環境資源科学研究センター及び九州大学I2CNERでは、低炭素エネルギー社会の実現にむけ、基礎科学と工学の両側面に基づく新しい触媒の開発を目指しています。今回開発された触媒は、低エネルギーで高効率・低コストでの物質変換を可能としました。将来、年間数トン以上の合成を可能とする大規模処理装置、化学プラントへの応用や低エネルギー・低環境負荷での新物質開発の促進へ大きな波及効果が期待されます。今後は、基礎研究を継続してさらに安定性・耐久性を高めたパラジウム触媒の開発を進めていきます。
なお、本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)「低エネルギー、低環境負荷で持続可能なものづくりのための先導的な物質変換技術の創出」(通称:先導的物質変換領域(ACT-C))(研究総括:國武 豊喜(公益財団法人 北九州産業学術推進機構 理事長))における研究課題「次元制御されたナノ空間体と不均一系集積型遷移金属ナノ触媒に融合した先導的π電子物質創製触媒システムの創出」(研究代表者:山田陽一)として行われました。
<原論文情報>
・Y.M.A.Yamada,Y.Yuyama,T.Sato,S.Fujikawa,Y.Uozumi "A Palladium-Nanoparticle and Silicon-Nanowire-Array Hybrid:A Platform for Catalytic Heterogeneous Reactions" Angewandte Chemie International Edition 2013;Angewandte Chemie 2013,DOI:10.1002/anie.201308541 and 10.1002/ange.201308541
<発表者>
独立行政法人理化学研究所
環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
副チームリーダー 山田 陽一(やまだ よういち)